一韶の俳句ブログ

俳句を詠うのは自然・私・家族・夢や希望・社会など。読む時はどんな解釈が浮かぶか読み手の経験や生活によって様々

1961   ふらり来てふらり帰るや冬の山   雲水

2018年06月06日 | 岩戸句会 第五句集「何」

 十五年前のある日、尻尾を垂らし痩せこけた一匹の幼犬がやって来た。食べ物をあげたところ、そのまま居ついてしまった。モモと名付けたが、忠犬ぶりを発揮し、犬嫌いの女性に「こんな犬なら飼ってもいいわ」と言わしめるほど、我が家のアイドルになった。それから十五年、一度も病気もせず元気に暮らしていたが、ある日突然病気になった。脳梗塞のような状態で半身が不自由になり、歩くのがやっと。小さな段差でも転んでしまう始末。一週間、水も飲まず食べ物も拒否していた。それが水を飲むようになり、食べ物も少しは食べられるようになってきて三日後、突然行方不明になってしまった。不自由な体でそう遠くへは行けないはずなのに、いくら探してもどうしても見つからなかった。

 犬や猫は、死期を悟ると飼主から離れ、自然の中に帰って行くという。野良犬としてふらりとやって来て、潔く去って行ったモモ。見事としか言いようがない。

 「人間もかくあるべきだ」と教えられたような気がする。この教訓は、薬漬けの無用な延命措置への警鐘にも聞こえる。私も、かくありたいと切に願う。

 モモ、長い間有難う。 

 

初鳩の恐み恐み啄めり

目白に蜜柑切って爼始かな

薄氷を犬鼻で割り舌で飲む

どう見ても姉さん女房猫の恋

巣作りに薪ストーブが選ばるる

 

鶯が誘う三時になさりませ

山桜卑しからざる鵯の群

掌の種を啄む巣立鳥

油虫語気がブリブリしておりぬ

敏捷が生き抜くちから金魚の子

 

梅雨明けを初みんみんのファンファーレ

山雀が揺らす山百合開くかに

樹液吸う寄ってたかってたまに喧嘩

敏捷に飛び鈍重に歩し虻打たる

何気なく指を立てたら塩辛とんぼ

 

白玉に霧を捕らえし蜘蛛の網

蝉鳴かず巌にしみ入る雨の音

秋蝉をヒミツと記すカレンダー

街路樹に椋鳥の群収まりぬ

脳味噌を啄まれたり鵙の声

 

心得て流されている秋の鳶

冬が来たよヤマちゃんエナちゃんメジロちゃん

木枯や徹頭徹尾喜ぶ犬

進化論の外にごろんと赤海鼠

薪割りを鳥が見ている冬木の芽 

(岩戸句会第五句集「何」より 小坂雲水

タツナミソウ(立浪草)



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