7時起床。いつも通り会社へ出勤する。
午前中に出張へ出て、そのまま午後から時間休暇を取り、川崎競馬場へ行く。今日は、今年騎手試験に合格し、3月1日付で騎手免許を取得した新人女性騎手、藤田菜七子騎手がデビューする。通常、JRAの新人騎手は3月の最初の週末にデビューするが、JRAでは16年振りとなる女性騎手の誕生ということもあって、所属厩舎の根本康広調教師が「3月3日のひなまつりにデビューさせてあげたい」と考えた。その考えに、多くの馬主や他の調教師も賛同・協力し、今日いきなり6つのレースに騎乗することになった。これは、観に行かないわけにはいかない。
川崎競馬場に着いたのが14時前。私のような競馬ファンがたくさんいるようで、川崎競馬場とは思えないような混雑っぷり。休日のG1レースならまだしも、今日は大きなレースがひとつもない平日の昼間だ。公式の発表によると、7,214人の来場があったらしい。確か、平均の入場者数が5,000人弱だし、これには人が入りやすい重賞やナイターの入場者数がかなり影響していることを考えれば、間違いなく「菜七子フィーバー」の成果だろう。
さっそく、この後彼女が騎乗する3つのレースの馬券を買う。彼女の名前にちなんで、単勝を700円ずつ購入した。
私が見る最初の彼女のレースは、第8レースである。前3走で全て3着に入っているポッドジョイ(牡4歳、父マーベラスサンデー、母父ジエイドロバリー)に騎乗。
川崎競馬場のパドックがこんなに混むなんて、嘘みたい。
既に横断幕が用意されている。
しかし、パドックでの周回はせず、すぐに本馬場入場。
本馬場のほうも大混雑。
結果は、最後の直線で大外から追い込んでの5着入賞。入賞ということで、それほど悪い結果ではないのだが、スタートが悪くて後方待機の大外一気勝負となってしまったのが残念だった。ただ、最後まできちんと追って1頭だけ別格の末脚を繰り出させていたことは良かったと思う。
続いては、第10レース。所属している根本厩舎のレガリアシチー(牡6歳、父ロージズインメイ、母父シルバーフォーク)に騎乗。そもそもの馬の実力的に、このレースは難しい。
報道陣の数もすごい。60社以上が訪れたそうだ。
今回もパドックの周回はせず、馬場へ先入れ。
予想通り、結果はブービーの13着。騎乗云々の前に、そもそも馬の力的にどうしようもなかった。ただ、こういう馬を馬券に絡ませられると一目置かれるようになると思う。
アイス最中を食べながら、ちょっと休憩。今週は明後日も競馬観戦の予定が入っているので、これ以上お財布を軽くしないように、今日は彼女が出るレースしか観ない(観ると馬券を買ってしまう)。
最後のレースは、最終の12レース。前3走が全て5着のポッドライジング(牡4歳、父ヴァーミリアン、母父ステイゴールド)に騎乗する。
私が競馬場に着いてから、初めてパドックで彼女の姿を観ることが出来た。
6レース目ということで慣れてきたのだろうか。表情に余裕が出てきたようにも見える。
これだけの報道陣が川崎競馬場に来ることは、これからも、この先も、ないだろう。
私が観た3つのレースの中で、このレースが一番素晴らしかった。好スタートを決めて2番手につけ、3コーナーで一度は両側から後続馬に捲られて追い抜かれたが、そこから捲りかえして最後の直線で先頭に立った。最後は2頭に抜かれて3着となったが、この積極的な騎乗に会場は大いに盛り上がった。特に、好位を確保した最初の直線と、捲り反して先頭に立った最後の直線では「うぉー!」というおじさまたちの歓声が起こり、私も背筋がゾクゾクした。にわかファンも常連も関係なく、スタンド全体が彼女を応援していた。結果的には勝てなかったが、多くの人が拍手を送り、私のとなりの常連らしきおじさんは、「この子、ちゃんと見せ場作るね。良い騎手になるぞ。」と呟いていた。私も、完全に同意である。
最後に素晴らしいレースを観ることが出来て、大満足で帰途につく。私が観られなかった前半の3レースも含めると、彼女のデビュー戦は6戦して2着1回、3着1回、4着1回、5着1回と、4回入賞し2回馬券に絡んだ。これは、十分に素晴らしい成績である。もちろん、初勝利を挙げることが出来なかったのは悔しいだろうし、地方と中央(JRA)では環境的に大きく異なるので、今日の成績がそのまま今週末からの中央のレースにつながるかどうかはわからない。見ている側としては、大外に出す(出さざるをえない?)ことが多くて馬群を割るような騎乗が出来るのかどうか不安もあるし、新人なので当然ながらまだまだ技術的な未熟さもあるのだろう。それに、完全にと言っても過言ではないくらい男社会である競馬界の中、しかも体力や筋力(パワー)が求められる騎手という仕事で女性が戦い続けることの困難さも計り知れない。しかし、今日という日は、藤田菜七子という1人の騎手にとって、とてつもなく大きな1日になったに違いない。これからたくさんのことを学び、吸収していけば、きっと1人前の騎手として活躍できるだろうし、そうなることを願っている。そして、周囲の人には、今のフィーバー状態が終わった後も、引き続き彼女の成長を見守り、支えていって欲しいと思う。
【藤田菜七子騎手 2016年3月3日 デビュー日の全成績】
第1レース コンバットダイヤ(牝3、浦和・工藤伸輔厩舎) 8着
第4レース シンフォニーヒルズ(牝9、川崎・河津裕昭厩舎) 4着
第5レース ミスターナインワン(牡7、浦和・牛房栄吉厩舎) 2着
第8レース ポッドジョイ(牡4、川崎・八木正喜厩舎) 5着
第10レース レガリアシチー(牡6、美浦・根本康広厩舎) 13着
第12レース ポッドライジング(牡4、川崎・八木正喜厩舎) 3着
19時前に帰宅。今日は良い1日だった。直前まで迷ったが、やっぱり競馬場に行って良かった。そして、「藤田菜七子を観に行くので休ませてください!」という私のお願いを聞き入れてくれた、競馬部のメンバーでもある上司に感謝である。