社会を見て、聞いて、感じる。

人生そのものがフィールドワーク。

7月28日(土)

2018年08月24日 01時07分02秒 | 2018年

 4時起床。今日は、札幌競馬場へ行く。今年度の仲間内のPOG(Paper Owner Game)で私が指名した2頭が同じ新馬戦に出走するので、それを生で観ることが目的である。前回の日記が福島競馬場で今回が札幌競馬場だが、一応他の日はきちんと育休男子らしく育児をしています、と言い訳しておく。

 横浜線の始発を待っていると時間ギリギリになってしまうので、家からタクシーで京急線の仲木戸駅へ出て羽田空港へ向かい、6時30分発のJAL501便に乗って新千歳空港へ。関東地方へは大型の台風がおかしな経路で接近しているが、なんとか飛行機は飛んでくれた。

 空港の売店で空弁「鮭のルイベ漬盛り海鮮弁当」を買い、快速エアポート号の指定席をとって、移動中の車内で朝食にする。なかなか塩味濃いめだが、ご飯は進む。ただ、これはルイベなのだろうか。ルイベを謳うからには、もう少し冷凍っぽさが欲しかったのだが。

 札幌競馬場の最寄駅である桑園駅(札幌駅の隣駅)に到着し、駅前からバスに乗って札幌競馬場へ。今年度の札幌開催初日なので、結構な人の数である。

 札幌競馬場は、これぞ北海道の競馬場といった感じの広々とした競馬場である。この時期でも涼しく、日差しの温かさと風の爽快さが気持ち良く感じられる。もし私が馬で夏場にレースに出走しなければならないとしたら、間違いなく札幌がいい。中京や小倉はもってのほかだし、新潟や福島だって何だかんだ言って暑い。それに比べて札幌(おそらく函館も)は、桁違いに過ごしやすい。競馬場の話に戻ると、コース付近の観戦場所の大半が芝生になっていて、家族連れやカップルたちがシートを敷いてピクニック感覚で過ごしているし、2階のテラスになっている観戦スペースもとても開放的で、とにかく居心地の良い場所が多い競馬場だなという印象を持った。私が今まで訪れた競馬場の中で、居心地の良さという点ではここが一番ではないだろうか。

 本日初の馬券購入は第2レース。前回の仲間内のPOGで指名していたダノンチェリーの応援単勝馬券を購入する。結果は5着。デビュー当初の感じに比べれば随分と良い走りが出来るようになったものの、この時期の3歳未勝利戦は競走馬としての存在意義を賭けた勝負になるので、そう簡単には勝てない。勝てなくても良血の牝馬だから繁殖に上がれて命は守られるのだろうが、それでも1勝しておくことは重要である。当然ながら、競走成績の良し悪しは繁殖牝馬としての価値に大きく影響するし、その価値によって扱いも大きく変わってくるのだから。

 競馬場グルメとして、もつ煮とソフトクリームを頂く。もつ煮は一般的なものと味の感じがだいぶ違って(どう違うのかはうまく説明できない)、個人的には少し苦手な感じ。ソフトクリームは、北海道だけあってさすがに美味しく感じられる。気分的な問題なのか、やっぱり素材が良いのかは定かではない。

 ターフィーショップ(グッズ売場)で、娘にスタイ(食事用前掛け)を購入。おがわじゅりさんという、馬のイラストを数多く手掛けていらっしゃる方の作品で、私は彼女のほのぼのとした馬の絵が大好きなのだ。

 昼前になると人が増えて、場内もどんどん活気に満ちて来る。あんまり混むのはつらいが、競馬場はこれくらい人がいたほうがいい。

 私にとってのメインレースは、昼休み明けの第5レース、メイクデビュー札幌(新馬戦・芝1,500m)である。今年度の仲間内のPOG(Paper Owner Game)で私が指名した2頭、アルママ(2歳牡馬、父・オルフェーブル、母・ホエールキャプチャ、母父・クロフネ)とレーヴドカナロア(2歳牝馬、父・ロードカナロア、母・レーヴドスカー、母父・Highest Honor)のデビュー戦だ。同じレースに2頭が出るということは、少なくともどちらか1頭は負けるということなので、あまり嬉しいことではない。ただ、観戦する上では、一度に2頭を見られるというのはありがたい。

 パドックで、2頭の姿を眺める。彼らにとってはパドックも初体験だが、たくさんの人に驚いて落ち着きをなくす馬が多い一方で、とても落ち着いて周回していた。もちろんどちらもまだ身体は子どもで競走馬としての成長はこれからといった感じだが、贔屓目を抜きにしても他の馬たちとは少しレベルが違う感じがする。特に、アルママには父と母の面影が強く感じられ、私の隣で一眼レフカメラを構えていた見ず知らずのお姉さんと、「馬体は小さいけど雰囲気あるわね」「そうですね、(父の父である)ステイゴールドがしっかり出てる感じですね」「そうそう、毛色はお母さんそっくりだし、良いところが合わさってる感じ」という会話をしながら、その姿に見入っていた。

 私の予想では、アルママが勝つだろうと思っていた。レーヴドカナロアはまだ少し身体が緩すぎるように感じられた。しかし、結果はレーヴドカナロアが1着でアルママが2着。最後の直線で先に抜け出したアルママを後ろから来たレーヴドカナロアが豪快に差し切った。あの馬体で勝ってしまうとは。レーヴドスカーの子どもはやっぱりよく走る。ただ、身体が弱い血統なので、何とか無事に来春の大一番までいってくれればと思う。一方のアルママは、2着に来たとはいえ終始騎手が促していて、かなりズブい(反応が鈍い)ように見えた。彼にとっては少し距離が短かったのかもしれない。まあ、新馬戦は幼稚園の駆けっこのようなものだと言われているから、この1戦で何かを判断することは全く出来ないのだが。何はともあれ、指名した馬2頭のワンツーフィニッシュを見られたのは良かった。ちなみに、馬券は3連単が当たってもトリガミだった。3着に人気薄が来てくれればなー。

 JALのホームページで確認したところ、台風の影響で、新千歳から羽田へ向かう飛行機は夕方までの全便で欠航が決まった。私が乗る予定の便(20時発の羽田行き)が運行できるかどうかは未定となっており、振替や払い戻しの受付をしている。明日以降の便の空き状況を見ると、既に多くの人が振替済みのようで、明日の便は全便満席、明後日の便も夕方18時の便がわずかに空いているだけという状況だ。更に、札幌周辺の宿にも空きはない。さて、どうするか。一か八かで空港へ行って飛行機が飛ぶことに賭けるか、安全策を取るか。競馬場から札幌駅へ戻りながら色々と考えた結果、妻に連絡して許可をもらい、明後日の便に振替をした。空港へ行ったはいいものの飛びませんでした、近くに泊まるところもありません、というのが一番怖かったのだ。

 結果的に明後日まで北海道にいることになったし、札幌周辺に泊まれるとこはないので、レンタカーを借りて日高地方へ行くことにした。日帰り競馬の予定が、2泊3日の馬三昧旅行に早変わりである。妻に聞かれると怒られるだろうが、正直なところラッキーだ。

 札幌駅地下街にある「MISUZU CAFE」で昼食。江別にあるトンデンファームという牧場とのコラボレーションメニューだという「ソーセージカレー」を頂く。ジューシーで旨みの引き締まった味がするソーセージはもちろん、失礼ながら想像に反してカレーそのものがとても美味しくて驚かされた。適当に見つけて入ったお店だったが、当たりである。

 電車で新札幌へ移動する。レンタカーの予約時間までに少し余裕があったので、駅ビルのショッピングセンターに入っているカフェ「宮越屋珈琲」で休憩。ティラミスモンブランなるものを食べる。ティラミスというよりもホワイトチョコレートの味に近いモンブランで、しっかり甘いがすっきりした味わいだ。これは美味しい。また、店員さんがとても気さくでお店の雰囲気がとても良かったのも印象的だった。どうせなら、もっとゆっくり過ごしたかった。

 16時過ぎにレンタカーを借りて、日高方面を目指す。日高自動車道という有料道路を通って、以前は日高門別というインターチェンジが終点だったのだが、現在は日高厚賀というインターチェンジまで延びていて、日高地方へのアクセスが良くなっていた。いずれはこれが静内まで通るらしい。そうなったら、空港から牧場地域まであっという間に行けるようになるだろう。

 18時前に今日の宿(牧場見学の際には毎回のようにお世話になっているホテルである)、静内エクリプスホテルに到着。ホテルに着くと、ロビー前にたくさんの出店や人が集まっていた。聞いたところ、今日はちょうど地域のお祭り「新ひだか夏祭り」が開催されているそうだ。

部屋の窓から大きな虹が見えた。とっても綺麗。

 せっかくなので、お祭りを見に外へ出る。街を歩くと至る所に宴会場があり、歩行者天国になった道にもたくさんの人が歩いている。会場も道1本ではなく、中心商店街から駅のほうまで結構な範囲に広がっている。更に、周辺の飲食店などのお店が店前に臨時売場を出したりしていて、以前歩いた際には場末感たっぷりだった道すらも活気に満ちている。これまでに何度か訪れているが、「この街、こんなに人いたんだ」と驚かされた。19時からは阿波踊りパレードが始まり、自衛隊静内駐屯地の皆さんに始まり、保育園・幼稚園児、商工会、福祉施設など、たくさんの団体が踊りを披露していた。特に自衛隊の皆さんの踊りは圧巻で、統一感と迫力がすごかった。また、私も父親になったからだろうか、以前ならそれほど興味を持たなかったであろう子どもたちの踊りもとても微笑ましく感じられ、自然と手拍子で応援している自分がいた。

 私は仕事柄、地域の活性化について考えることがある。そういった面からも、今日体験したお祭りには考えさせられるものがあった。比較的都会な(もしくは都会に近い)神奈川とこの場所では環境が全く違うし、単純な規模でいえばもっと大規模で人の集まるお祭りやイベントもたくさん知っているのだが、まだうまく整理して言葉にすることが出来ないものの、今日感じたことから学べることや発見があるような気がする。何となく、「地域の集団凝集性」がキーワードになるような、ならないような…。うーん、現時点ではやはり考えがまとまらない。

 ホテルへ戻り、レストランで夕食。つぶ貝の刺身、日高産ししゃもの天麩羅、エゾシカの七輪焼きを頂く。どれも地元の食材を使った料理だ。サラブレッドだけでなく、この地域には食においても地域資源が数多く存在するのである。私も、これらの美味しい名産品たちがなかったら、おそらくここまで毎年のように頻繁にこの場所を訪れてはいないだろうと思う。

つぶ貝刺身。コリコリとした食感が癖になる。この地域へ来ると、必ず1度は食べている気がする。

今回初めて食べた日高産ししゃもの天麩羅。これまで食べたししゃもとは全く違って、身がしっかり柔らかい。

エゾシカ肉はこれぞ赤身という感じ。また、レバーのような風味もある。独特の臭みも少しあるが、私はそれがたまらない。

 満腹で部屋へ戻る。部屋には、馬産地の情報誌「うまレター」が置いてある。これを読むのも楽しみのひとつである。シャワーを浴びて歯磨きを終え、いつでも寝られる状態になってから、ベッドに寝転がってこれを読む。そして、いつの間にか寝てしまう、というのが幸せなのだ。

 ちなみに、今日私が乗るはずだった飛行機は、45分の遅延があったものの、結局きちんと飛んだらしい。まあ、そういうこともあるでしょ。


7月7日(土)

2018年08月15日 21時12分45秒 | 2018年

 6時起床。今日は、娘の世話は妻にお願いして、1人で福島競馬場へ行く。目的は、9レースの開成山特別(芝・2600m)という500万クラスの条件戦。メインレースでもなく、例年であれば特に注目されることもない一条件戦だが、今年は違う。オジュウチョウサンという、障害レースの歴史的名馬が出走するのだ。オジュウチョウサンは、父・ステイゴールド、母・シャドウシルエット、母の父・シンボリクリスエスという血統の7歳牡馬。2013年のデビューから2戦は平地(芝)のレースで未勝利に終わるものの、障害レースに出走するようになってからはコンスタントに実績を重ね、2016年4月からはこれまで9戦無敗、障害G1レース5連覇を達成している馬である。そんなオジュウチョウサンが、今回2歳時以来約5年振りに、障害ではない平地のレースに出走するのである。しかも、鞍上は武豊。これは、どうしても生で見てみたい。

 通常、障害レースに転向するのは、平地(芝やダート)のレースで力が足りない馬、特にスピードが足りない馬である。スピードが足りないというのは競走馬にとって致命的な欠点であるが、障害レースであれば、障害飛越のスムーズさやスタミナを武器に勝負することが出来る。一方で、どんなに障害レースで強い馬も、平地のレースでは勝負にならない、というのが一般的な見方である。しかし、オジュウチョウサンならもしかして通用するのでは…。競馬ファンだけでなく、記者や関係者の中でも「間違いなく通用する」という意見もあれば「通用するはずない」という意見もあり、議論が盛り上がっていた。

 私は、希望的観測ではあるが、「おそらく通用する」と考えていた。一応、根拠もある。第一に、普段は4,000mクラスの距離を、しかも障害を飛越したり坂の上り下りをしながら走っているのだから、2,600mを走るスタミナは間違いなくある。第二に、オジュウチョウサンの走り方は重心が低く、障害レースには不向きで、むしろ平地のレースに向いていると言われている。第三に、これが最も懸念されているスピードに関する部分であるが、彼は前走の「中山グランドジャンプ」で4,250mの障害コースを走った際に、最後の3ハロン(600m)を36.9秒で走っている。これは、今年行われた天皇賞・春(京都・芝・3,200m)で入賞した馬たちと比較しても、1秒くらいしか変わらないタイムだ。そう考えれば、彼の持っているスピードは、今回の500万条件はもちろん、長距離のレースならオープンクラスでも十分通用すると推測される。これらの理由から、今回は勝てるのではないか、と考えた。

 7時過ぎに家を出て、新横浜から東海道新幹線で東京へ向かい、8時00分発の東北新幹線やまびこ175号に乗る。朝食は、東京駅で購入したカツサンド。朝からちょっと胃もたれする。

 福島駅では、在来線ホームで「とれいゆつばさ号」を見ることが出来た。福島と山形・新庄を結ぶリゾート列車なので、これまでなかなか見る機会がなかったので、タイミングがよくてラッキーだった。

 福島駅のバス乗り場はすごいことになっていた。福島競馬場へは直通バスがなく、通常の路線バスに乗ることになるのだが、私と同じようにオジュウチョウサン目当てに多くの人が詰めかけて大混雑になっているのだ。しかも、複数の種類のバスが競馬場の前を通るので、「次のバスは○○番乗り場から出ます」という案内に基づいて行列が大移動したりと、なかなかの混乱っぷりだった。私は1本見送ったことで座れたが、車内はギュウギュウだし、途中のバス停で待っていた地元の方々はそもそも乗車出来なかったりしていた。おそらく、普段はこんなに人が来ることはないのだろう。そんな中でも、運転手さんが冷静で、お客さんを的確に誘導していたので安心感はあった。

 何とか福島競馬場に到着し、少し散策する。天気がいまいちで気温も低く、肌寒いくらいである。今年は福島競馬場が出来てちょうど100年らしく、記念スタンプが印刷された馬券も発売されていた。

 

 第2レース(3歳未勝利、ダート1,700m戦)で、藤田菜七子騎手が7番人気の馬を持ってきた。来場者が多いこともあって、ゴール前は大歓声に包まれる。レースが終わってから気付いたのだが、7月7日、菜七子が7番人気。完全にサイン馬券だ。なぜ気付かなかったのだろう。悔しい。ちなみに、馬はコパノステラートという3歳牝馬で、名前からわかるとおりDr.コパさんの馬である。藤田騎手はコパさんの馬と相性も良いし、ダートで前に行ける馬に乗った時は買いなんだった。ますます悔しい。でも、彼女の笑顔を生で見られたから良しとするか。

 早めの昼食に、福島競馬場名物のひとつである「上杉」の牛ばら串を食べる。炭火焼きなので香ばしく、ジューシーで「肉食ってるー!」感がしっかりと感じられる。串焼きでこの美味しさはすごい。さすがは名物。

 続いては、「花月寿」で月見そばを頂く。某有名予想家が絶賛していたお蕎麦で、なるほど確かに美味しい。失礼ながら、店構えからは想像できない味である。そりゃ巷の有名蕎麦屋と比べられると厳しいかもしれないが、競馬場でこういうお蕎麦が食べられるのは嬉しい。

 コースに出て、内馬場のほうまで散策。多くの競馬場がそうであるように、福島競馬場も内馬場(コースの内側のスペース)には子どもたちが遊べる施設が揃っている。今日は、動物カートも動いていた。子どもの頃はこの手の乗り物が大好きだったが、お金が掛かるのでそう簡単には乗せてもらえなかった記憶がある。

障害コースの坂だ。近くで見るとその険しさがよくわかる。急だし、上ってすぐに下るというのも厳しい。

これには応募できない。年齢的にも、体重的にも。

これには非常に興味を惹かれる。

 デザートにかき氷を食べる。少し特殊な「北の綿雪」というかき氷が売っていた。今流行りのふわふわなやつだ。トッピングをチョコレートにしたら、当然ながらチョコレートソースがすぐに固化してしまった。しかし、氷とチョコレートの相性は予想外に良い。

 こういう言い方が適切かどうか微妙だが、きちんと馬券も買っていた。結果は当たったり外れたりで、当然ながら外れのほうが多く、お財布は徐々に軽くなっていった。

 再び腹ごしらえ。先ほど牛ばら串を買った「上杉」で、今度は牛タン串。牛タンも美味しい。なかなかの厚みがあって、きちんと牛タンを食べている満足感が味わえる。その後、ソフトクリームも購入。夏場の競馬場でソフトクリームは外せない。

 いよいよ、第9レースが近づいてくる。パドックへ行くと大混雑で、ほとんど馬が見えない。G1レース並みの混雑だ。しかも、地元の人たちはこういう混雑に慣れていないのだろう、譲り合って詰めるという文化がないので、所々でピリピリした雰囲気が漂っていた。

 早めに自分の席に戻り、本馬場入場を眺める。これが本当に500万下条件のレースかと疑いたくなるほど、場内が熱気に満ちている。おそらく、これまでで一番盛り上がった条件戦だろう。そんな盛り上がりをよそに、オジュウチョウサンの馬場入りは落ち着いたもので、返し馬でもリラックスして走っていた。まあ、普段は障害レースとはいえG1レースを走っている馬だから、これくらいの雰囲気は慣れたものなのだろう。

 発走は14時35分。ファンファーレが鳴ると、これまたG1レースの時のように手拍子が起きる。すごい盛り上がりだ。オジュウチョウサンは5枠6番。ゲートが開いて素晴らしいスタートを切る。それだけでまた場内がどっと沸く。一瞬先頭に立ちそうになるが、そこは外から来た馬たちに譲り、1周目の正面スタンド前では4番手、馬群の外目に位置していた。スピード的に流れについていけるかという不安はこの時点でほぼ消えた。そして、向う正面から第3コーナーに掛かる頃に後ろから押し上げて来る馬たちに合わせてペースを上げ、そのまま前を捉えて最終の第4コーナーでは既に先頭に立っていた。オジュウチョウサンが先頭で最後の直線に入ると、会場は大盛り上がり。結局そのまま後続の追撃を交わし、拍手喝采を浴びながら、最後は楽々と2着馬に3馬身の差をつけて1着でゴールした。これは、まさに楽勝だ。馬券の当たり云々を差し置いて、歴史的瞬間を生で見られたことによる感動で、背筋がゾクゾクした。

 

 レース後の表彰式も、とても平場のレースとは思えない盛り上がりだった。「今日は有馬記念か?」と思わせるくらいである。そして、オジュウチョウサンも武豊騎手も、やはり表彰式が似合う。

 後日、オジュウチョウサンの長山オーナーから、少なくとも今年は障害レースには戻らず、暮れの有馬記念を目指す意向が発表された。夢のある挑戦である。賛否両論はあるだろうが、賞金面を考えればほぼ確実に勝てるであろう障害G1を狙うのが合理的であるにも関わらず、敢えてこの道を選んだ英断に拍手を送りたい。おそらく、ファン投票で選ばれることは間違いないだろうから、あとはきちんと準備をして万全の状態で臨んでほしい。そして出来れば、有馬記念でも豊さんが乗ってくれたら嬉しいが、そこはどうなるかはまだわからない。まあ、まずはそれよりも次のレースをどうするか、だ。一応、有馬記念と同舞台で行われる九十九里特別(9月22日、中山・芝・2,500m戦)が目標とのことだが、フランスから長距離G1カドラン賞への挑戦の打診も来ているそうなので、どうなるかわからない。いずれにしても、次走もまた多くの注目を浴びるだろう。ちなみに、今日の福島競馬場の入場者数は前年比138.3%を記録し、開成山特別の売上は前年比195.6%にのぼったそうだ。オジュウチョウサン人気、おそるべし。

 レース後、帰途につく。メインレース前に帰れば空いているかと思いきや、同じようなことを考える人がたくさんいるようで、バス乗り場にもタクシー乗り場にも大行列が出来ていた。仕方がないので、駅まで歩くことにする。距離にすると約3キロで、歩いているとさすがに汗が出て来る。ただ、途中に結構面白い路地があったりして、それほど苦にならなかった。

 福島駅16時15分発の新幹線つばさ146号に乗り、東京へ。

 早めの夕食に、車内で「米沢牛焼肉どまん中」を食べる。有名な「牛肉どまん中」の焼肉バージョンで、これがびっくりするくらい美味しかった。駅弁なので温かくはないのだが、それでもお肉の旨み、そして脂の旨みががつんと伝わってくる。駅弁でこんな贅沢なお肉が食べられるとは。

 新幹線の車内誌で、角田光代さんの旅行記が載っていた。岩手県の岩泉町を旅した記録だ。この地域は2016年に大きな台風被害を受けたそうで、そこから復興を果たした飲食店を彼女は訪れていた。そんな彼女のある文章が、頭の中に強く残った。

「恥ずかしいことに、私は2016年の台風のことを覚えていなかった。この町に死者まで出る被害があったことも、知らずにいた。もしその前に旅していたら、すぐにそのニュースは目についただろう。実際の友だちの身を案じるように案じ、自分にできることはないかと考えただろう。何も知らずにいることの無力と、知って何もできないと焦る無力は、まったく異なるものだと私は東北を旅して思うようになった。」

 東京駅で東海道新幹線に乗り換え、新横浜へ戻る。妻へのお土産は、定番の「ままどおる」にした。これは鉄板のお菓子だ。

 家へ帰る途中、コンクリートの道の真ん中で、セミの幼虫がもがいていた。そーっと取り上げて家へ帰り、裏庭の木にそっとつけてやると、ゆっくりと木の幹を登り始めた。そして翌朝見てみると、きちんと脱皮に成功していた。明け方はまだ羽が透明だったが、昼前には立派にアブラゼミの色になり、夕方にはどこかへ飛び立っていた。セミの寿命は約1ヶ月。雄か雌かはわからないが、雄なら「ガンガンアピールしてガンガンセックスしろよ」、雌なら「命短し恋せよ乙女」と送り出したいところである。

 ちなみに翌朝は、網戸のところにヤモリも遊びに来ていた。夜には毎日のように窓の向こうに見かけるのだが、明るい時間帯に会うのは初めてである。小さくてかわいい。