7時起床。今日から1泊2日で、妻と湯谷温泉へ旅行に行く。このように書くと聞こえはいいが、本当の目的は温泉ではなくて、今年度の仲間内のPOG(Paper Owner Game)で私が1位指名した馬、ヘンリーバローズ(2歳牡馬・栗東・角居厩舎)が中京競馬場で新馬戦に出走するのを観に行くことである。当初は1人で日帰りで行こうと思っていたところ、妻が「私も一緒に行きたい」ということで、「じゃあ競馬だけじゃ悪いから温泉にでも泊まって帰って来ようか」ということになった。
8時前に家を出て、品川駅08時40分発の東海道新幹線ひかり505号に乗る。せっかくなので、朝食は駅弁にする。私は、「やまや」の宮崎牛と辛子明太子弁当、妻は「まい泉」の玉手箱弁当を購入。乗車時間はちょうど1時間ほど。駅弁を食べて少しまったりしたら、すぐに豊橋駅に到着する。
豊橋からは名鉄線に乗り換える。10時15分発の特急の特別車両(という名の指定席)に乗り、その後2回の乗り換えを経て、中京競馬場前駅に到着。
新型の特急だ。
途中からは、普通列車に乗る。
車内の窓には、普通のカーテンがかけられている。
駅から競馬場までは、歩いて10分も掛からない。道も整備されていて日除けもあるので、真夏のこの時期でもそれほど苦にはならない。
中京競馬場に着いたのは、ちょうど第4レースの始まる頃(11時30分)だった。私たちのお目当ては第5レースなので、このレースは見(けん)に徹する。
第4レースが終わったところで、馬券を購入。私は応援する馬が明確に決まっているので迷うことはないが、妻は色々と考えて2000円分ほど買っていた。「1レースで2000円も買うの?」と聞く私に、「だって、せっかく遠くまで来たんだから」と妻。確かにそうだが、夫婦揃ってギャンブラーになったら家計が困窮するので、それが当たり前にならないように気をつけたまえ。
馬券を買ったら、いざパドックへ。ヘンリーバローズとの初対面である。
今年度のPOGにおいて、私は一瞬も迷うことなくこの子を1位指名した。その理由は、2年前に遡る。2年前、私にとって初めてのPOGで、全兄のシルバーステートを指名した。そのシルバーステートは、新馬戦こそアドマイヤリード(今年のヴィクトリアマイルで優勝)に敗れたが、続く未勝利戦、紫菊賞(500万下)を惚れ惚れするような圧勝で制した。しかし、その後に故障が発覚し、1年以上の休養を余儀なくされてしまった。圧巻の走りを見ていただけに、本当に残念だったのを覚えている。ちなみに、その年の私のPOG順位は、最下位。「シルバーステートが無事だったら余裕で1位だったはず」というのは、今でも私の口癖である。
だから、彼の2歳下に全弟がいると知った時から、1位で指名すると決めていた。ヘンリーバローズは、シャープでかっこいい兄とは対照的に、筋肉隆々のガテン系タイプの体つきをしている。それが良いことなのか悪いことなのかは、現時点ではわからない。しかし、兄が獲れなかったダービー馬の称号を、今度は弟が狙うのだ。指名するしかないじゃないか。競馬はロマンなのだから。そんなドラマの始まりに立ち会うために、今日わざわざ中京競馬場までやってきたのである。(ちなみに、約1年半の休養を経て今年復帰した兄・シルバーステートは、5月の1000万下、6月の1600万下を圧勝。その様子を見て、「やっぱり彼は幻のダービー馬だなー」と思った。秋以降が楽しみである。)
パドックに入ってきたヘンリーバローズは、聞きしに勝る素晴らしい馬だった。皮膚は薄く、見るからに筋肉質な体つき。これでもまだ8分の仕上げだということだから、恐ろしい。パドックを周回する様子も堂々としていて、慣れない環境に暴れたり鳴いたりする他馬を尻目に、元気よく歩いていた。贔屓目かもしれないが、本当に素晴らしい馬だ。ちなみに、騎手が乗るタイミングではさすがに「嫌々」と駄々をこねていて、「ああ、でもやっぱりまだ子どもなんだな」と微笑ましかった。
コースへ出て返し馬も見る。川田騎手が丁寧にエスコートして、全ての馬が走り出したのを見届けてからゆっくりと走り出すヘンリーバローズ。良い具合に力強く、それでいてスムーズな走りだ。
12時20分に発走。私はゴール目の前でかぶりつき、妻は日陰になっているスタンドから観戦。ゲートが開いた瞬間、素晴らしいスタートを切るヘンリーバローズ。その後、きちんと3番手で折り合う。1000mが66秒という超がつくほどのスローペースでも、きちんと折り合っていた。そして、最後の直線。良い位置から仕掛けだすとグングンと伸びてたちまち先頭に立つ。「これは勝った!完璧だ!」と思った次の瞬間、外からワグネリアンが突っ込んできて、残りの100mは壮絶な叩き合いになった。響く馬の足音と鞭の渇いた音、周りの観客の叫ぶ声、自分自身の叫ぶ声…。3着以下の馬に5馬身以上の差をつけた上での2頭の叩き合いは、写真判定の結果、ハナ差でワグネリアンに軍配が上がった。ヘンリーバローズにとっては、本当に惜しいレースだった。正直なところ、この暑さの中でこれほど消耗するレースをして、勝つのと負けるのでは大きな差がある。馬体への負担も大きかっただろう。一方で、この馬の強さを確信することも出来た。上がり3ハロン(最後の600m)のタイムが中京競馬場のレコード記録を更新したそうだから、上位2頭に力があることは明らかだ。間違いなく、ダービーを意識できる。だからこそ、しっかりとケアをして、次のレースに臨んでもらいたい。今日は、本当にお疲れ様でした。お兄さん共々、これからもずっと応援します。
素晴らしいレースを観た興奮と負けた悔しさで複雑な感情を抱きつつ、中京競馬場を後にする。ちなみに、妻はしっかりと馬券を当てていた(トリガミではあるが)。
中京競馬場前駅から急行に乗り、国府駅で乗り換えて豊橋へ戻る。国府駅がいかにも地方の田舎駅という感じで、のどかな雰囲気だったのが印象的だった。
中京競馬場前駅から乗った豊川稲荷行きの急行。
国府駅で乗り換え。国府と書いて「こう」と読む。
豊橋行きの急行がやってきた。これに乗る。
豊橋駅で一旦下車し、近くのショッピングビルのフードコートに入っている「スガキヤ」に入り、遅めの昼食。妻にとっては初スガキヤである。私は特製ラーメン、妻は肉入りラーメンを注文。ちなみに、特製ラーメンは、肉入りラーメンに生卵がのったものである。ここのラーメンの味は妻にも好評で、大のスガキヤファンの私としては少しほっとした。その後、追加でソフトクリームも注文。昔懐かしい味である。最近、この味のソフトクリームを出すお店が随分減ったような気がする。やっぱり、スガキヤが関東にあればいいのに。
豊橋駅14時42分発の飯田線普通列車岡谷行きに乗り、湯谷温泉を目指す。「211系車両で2ドアの転換クロスシートなんて初めてだな」と思って調べてみたら、見た目はほとんど同じでも、この車両は213系だということがわかった。鉄道マニアとして恥ずかしい話、このような車両の違いがあるということは全く知らなかった。この車両、都市部の運用には向かないが、飯田線の長距離運行に使用するには最適な車両であるように思える。
1時間ちょっとで、湯谷温泉駅に到着。飯田線では無人駅がほとんどなので、駅に着くたびに車掌さんもホームに降りてきて、切符を回収する。しかも、車内改札も頻繁に行っているから、ほとんど動きっぱなしだ。だったらワンマン車両みたいに開くドアを限定すれば…とは言うまい。ここは素直に、車掌さんの頑張りに感謝しよう。
今日の宿、「はづ別館」に到着。私にとっては3回目の宿泊だが、過去2回はいずれも1人だったので、妻を連れてくるのは初めてである。これまで同様お抹茶を頂きながらチェックインを済ませ、少しお部屋で休憩。
川を眺めながら、お抹茶を頂く。
これが美味しい。今回は、帰りにお土産として購入した。
部屋からも川がよく見える。
せっかくなので、少し周辺を散歩することにする。宿の入口を入ってすぐのところに燕の巣が作られていて、随分大きい雛が顔を出しているなと思ったら、今はまだ親が卵を温めている最中で、雛は誕生していないらしい。
周辺を散歩とは言ったものの、周りには何もない。それこそが魅力なのだが、本当に何もない。ただただ川沿いを歩き、橋を渡り、川のせせらぎを聞きながら森林浴をする。
これは一体何の抜け殻なんだろう。ヤゴだと思うのだが、それにしては大きいような気もするし。
宿へ戻り、温泉で汗を流す。暑い時期に温泉なんてという気持ちもあるのだが、ここのお湯は不思議と長く入っていてものぼせない。むしろ、暑さでやられていた身体がすっきりと軽くなる。
夕食は、地の食材を中心とした料理が並ぶ。定番のものもあれば、随分と工夫されているものも、中には「ん?この流れでこれが?」というメニューもあって面白い。次はどんなものが出て来るんだろうという期待してしまう構成だ。中でも、絹姫サーモンや鮎と湯葉の焼物が美味しかった。
前菜。鮎の南蛮漬けや野菜(ナスやサトイモ)などが美味しい。
無花果が丸々1個、冷たい寒天に包まれている。夏らしい涼しげな一品。
愛知県のブランド「絹姫サーモン」と「奥三河こんにゃく」のお刺身。絹姫サーモンは、鱒とアマゴの掛け合わせだそうだ。
猪肉のすき焼き風鍋。臭みがなくて、さっぱりとした豚肉のような味わい。
鮎と湯葉を中心とした焼物。鮎の身で湯葉を包んでいる。食感も含めて新しく、美味しい。
お豆腐をお餅で包んでいて、豆腐の中にトウモロコシが入っている。自然な甘さ。
鴨のロースト(左)と、夏野菜と甘エビのポン酢ジュレ。
ご飯は目の前で炊く釜飯。汁物は蓮芋のすまし汁。蓮芋のしゃきしゃき感が良い。
枝豆と海老のすり身の磯部揚げと、最後はパパイヤとドラゴンフルーツのデザート、赤ワインジュレ。
部屋に戻り、もう1度温泉に入ろうと思ったのだが、お腹いっぱいだったこともあり、テレビを見ながらゴロゴロとして、結局そのまま眠ってしまった。こうやってゴロゴロと過ごすのも、旅館の楽しみ方のひとつなのかもしれない。