流れが緩い抉れた岩の手前では出なかったが、思い切って岩の奥に毛鉤をなんとか投射し、じっくり待つと下からゆっくり黒い影が現れ毛鉤を吸い込んだ。
毛鉤を吸い込んだのは、この川に太古の昔より住み着くコギだ。
ここは奥出雲、八百万の神が集まる出雲大社、大国主命は八岐大蛇を退治したと言う素戔嗚尊(スサノオウノミコト)の子孫だ。八岐大蛇は斐伊川に住んでいたと言う怪物だが、しかし、人の営みより遙か昔、氷河期にこの川に閉ざされその血を引き継いで生き続け、今こうして目の前に現れたのは、ほぼ日本最西端に住むイワナ族の一亜種であるコギだ。
(今回の旅のお供はこの本)
出雲に向かう前日は、行かなきゃいけない免許の書き換えを済ませ、翌5/8は、ちょっと早起き目で羽田に向かったが、やはり遊びに行くときは思いっきり早朝がよいようだ。ちょうど平日の通勤ラッシュの時間帯で大きな荷物を持っての電車は回りにも迷惑だし、えらく疲れた。
飛行機に乗ると1時間ほどで出雲縁結び空港に到着。車で先に来ていた好さん夫婦が空港出口で出迎えてくれた。
やっとJFFの奥出雲ミーティングに参加できた。コギに会う事は一つの釣りの目標だった。
一つの目標を達成する前に身を清める意味でまずは出雲大社で祈りを捧げるのも重要な儀式だと信じる。
車を道の駅に止め、出雲の阿国に挨拶をしたら出雲大社。だがその前に出雲蕎麦でお腹を満たす。
(出雲に着いたら出雲蕎麦)
出雲大社詣では、二礼四拍一礼。
(出雲大社でお参り)
何カ所もお参りする場所があるので小銭は多めに用意した方が御利益もあると思う。
縁結びの神に今回の旅の無事をお願いして境内をでるといきなり雷が鳴りだした。
(出雲ぜんざい、旨い)
少し雨もぱらついたが、出雲ぜんざいは外せないので、ぜんざいを食べてからホテルに向かった。車に乗ってから大雨になったので、どうやら早速御利益があったようだ。部屋でちょっとゆっくりしていると雨も上がり、好さん達と雨上がりの松江城に行ってみた。
松江城には、耳なし芳一の著者としても知られる小泉八雲の記念館があるが、八雲は日本に来て、はじめにここ島根で英語の教師をしていたそうだ。
(雨上がりの松江城はさわやか)
(出雲の味覚)
しっかりと松江の歴史に触れた後は、仲間とともに、ありがたく島根の味覚を軽く味わい、旅の気分を盛り上げる事も重要だ。
おかげで明けて翌日はすっかり出雲旅気分、快晴の中、好さん達と一緒にいざコギに会いに向かう!
(奥出雲 おろち号)
集合はJR西日本では唯一、3段スイッチバックが存在する木次線の出雲坂根駅。ホームの片隅にタヌキが集まる延命水と呼ばれる湧き水があるので、空のペットボトルにこの水を汲んで釣りに行く事をお勧めする。
(タヌキで賑わう延命水)
さてそこから、今日は地元の佐々さんの案内で梅さんと3人で、車でコギが住む場所に向かう。正直言って川が小さいのでちょっとためらうが、川を上ると適度な落ち込みもあり、いかにもコギがひっそりと隠れて居そうな淵が現れた。そっと毛鉤を落とし込むと、20cmほどのコギと初対面だ。なんとも可愛らしい、けどもその顔つきはどこか八岐大蛇を思わせる眼光であり、柔なイワナとは違うと感じる。
(初コギ)
(小さな流れ、コギはC&R!)
残念な事だが、こんな小さな流れに住むコギを持ち帰る釣り人も多いとの事、絶滅してからでは手遅れになるので、持ち帰りはせずリリースして欲しいと切に願う。
お昼はコンビニのおむすびなんて寂しいことはしない。折角の奥出雲、駅の売店で地元のおばちゃんが作ったとわかる山菜おこわとタケノコの煮物をいただいた。
(駅のお店)
駅の売店と言っても、ちょっとした小さな雑貨店だ。おばちゃんと世間話をして、昔はこの辺で潜って魚を捕ったとか、まむしが多いから気をつけなさいなど、しっかりとその地に浸るのも旅の楽しみだ。おばちゃんと少し仲良くなると、鶏皮の唐揚げをサービスしてくれたのもありがたい。
地の味を味わった後は梅さんと2人でヤマメ釣りに向かった、そこは、午前中案内をしてくれた佐々さんの実家のそばの流れ、言わば佐々さんの庭。
(出雲のヤマメ)
川に降りるところを探すので、ちょっと難儀したが、降りるとすぐにライズを見つけ幸先良くヤマメにご対面だ。その先でもライズを見つけ、調子が良いなと思ったが、大間違い、そのライズする鱒はなんどか毛鉤に出るものの、フッキングせず、とうとう釣るのを諦め、終了となった。
(途中で寄った宝樹の湯)
今日は、ちょっと楽しみな、前夜際、急いで根っこやさんに向かうが、さすが梅さん、押さえるところは外さない。途中で、気持ちの良い温泉に浸かってから向かった。
(今夜のご馳走!)
うむむむ。。日本酒ってこんなに旨いのか!全くもって下戸なのに旨くてつい飲み過ぎている事に気が付かなかった。料理も激旨い。金時芋のスープは炭酸飲料の様に舌にシュワシュワ感があるにもかかわらずそのほんのりとした甘みは確かに芋のスープ、旨い。
(根っこやさんには、いろんなものがある)
なめらかな舌触りだが舌の上を転がすと確かにその味と感覚があり、思わず口の中で舌を回してしまうフォアグラの茶碗蒸し、島根に来て良かったと何度も思わせる。
(橘屋の釜揚げ蕎麦)
美味しい料理とお酒で楽しい宴もたけなわ、お腹いっぱい。なのに、〆の橘屋の釜揚げ蕎麦も完食した。
翌5/10が奥出雲ミーティング本番、すでに充分過ぎるほど出雲を満喫したがまだまだこれからだ。地元の仲間のFさんの案内で、昨日、好さん達が逃しコギに挨拶しに向かったが、残念ながら今日は同行の直さんも逃した。
(川に咲いていた花)
その敵討ちでは無いが、次の絶好のポイントで仕留めた八岐大蛇がはじめに話したコギだ。
(ここも小さな流れ)
釣った瞬間、デカイ!尺だ!と思い込んで思わず声が出たが、すくってみると25cmほどだった。どうやら完全に昨夜の酒が抜けていないようだ。しかし、この川でこの大きさに育つまでには並々ならぬ苦労があったに違いないと思う。敬意を払ってそっと流れに帰した。来年、尺になってまた会おう!と。
(お昼の集合場所)
出雲の神様に感謝しつつ、お昼の集合場所、可部屋集成館に集まり蕎麦とおむすびでお腹を満たした。
午後はヤマメと遊ぶために佐々さんの庭に向かったが、案内された場所は、昨日、梅さんと入って、散々手こずったライズのあった場所だった。今日もライズしていたので、あれやこれや試してみたけど、結局、毛鉤を舐めただけで仕留める事ができなかった。まだお賽銭、いや祈りが足りなかったようだ。ちょっと見えた魚体はヤマメでは無くコギに見えたが、あとで佐々さんに聞いたら、やはりあれはコギだったようで、佐々さんも数日前から狙っていたそうだ。なるほど、手強い訳だが、手強くてちょっと安心もする。
(ちょっと良いサイズの出雲のヤマメ)
その後は、ライズしているヤマメを見つけて、釣ることができた。
夜はミーティング本番、田丸屋さんでいざ宴会だ!
今夜もまたしても赤貝やら亀の手、ノドグロなどなど、ご馳走たっぷり、日本酒も凄い!
(今夜も出雲のご馳走だ!)
D-269(どぶろく) は旨くて、カッシーは一人でガブガブ飲んでいる始末だ。
(宴会は、盛り上がる、料理も旨し)
デザートの焼きバナナアイスは旨くて梅さんは皮まで食ってしまった。さすが奥出雲、なんでも旨い。宴会も盛り上がったが出雲の旅も明日で終わりだ。
コギにも会えてヤマメも釣ったし、出雲大社にもお参りして、連日連夜、旨い出雲の幸をたらふく食べ、仲間と楽しくやってきたので、もう充分だと、釣りはしないで帰るつもりだった。しかし、心優しい島根の仲間は、釣りもしないで帰るなんて、勿体ないと、安さんに佐々さんの庭につれて行ってもらい軽くライズをつぶして完了だ。
わざわざ空港まで送ってもらい恐縮至極お世話になりっぱなしだった。
(富士山が見えると旅もお仕舞い。。)
飛行機から富士山が見えると本当に旅は終わった哀愁に浸る。
ちなみに、最後のお昼は空港で蕎麦を食べた。
今回、初出雲だったが、参加のJFFメンバ、そして島根の仲間には本当にお世話になりとても感謝だ。出雲も、本当に良いとこだ。
帰って来て、体重計にそっと乗ったにもかかわらず、行く前より+の方向で止まった事は言うまでも無い。