気持ちが少し落ち着くと赤い花が見えてきました。花の輪郭がくっきりしてくると同時に、私は今日にしようと 決意するのでした。
気が付くと、丁度眺めていたプランターの傍には新しい側溝が作られ、真新しく綺麗なコンクリートの塊が溝に並べられ、きちんと土を被らないままに埋められる途中の状態となっていました。
古い側溝の木の塊、蓋などが片付けられないまま横に積んであります。
真四角のコンクリートキューブが開け放されて大きく口を開いています。穴の開いた蓋が傍に載せられています。
あの古い材木片は私のよう、この真新しく綺麗なコンクリートの塊はきっと新しい誰かなのだ。
私はおー君に、新しい素敵なガールフレンドができたのだと考えたのです。
つい最近聞いたおー君の近所の奥さん達の井戸端会議の話、誰それの古女房が捨てられて、新しい妾が家に入ったの言葉を思い出していました。
古く朽ちた材木と、真っ新なコンクリートの造形物、交互に見比べながら、やはり新しい人工物は美しいと私は溜息をつくのでした。
真新しいコンクリートの無機質な灰色。直線で綺麗に仕切られた立体。そういったきちんとした物体を見つめていると、激高していた気持ちが落ち着いて、自分について考えるゆとりができました。
『こんなにつらいなら、…』
こんなに人を好きになることがつらいものなら、もう人を好きにならないでおこう。そう私は考えました。
好きになる気持ちが無防備に自由な状態にあるから人の攻撃で傷ついてしまうのだ。この四角いコンクリートの箱の中にしまい込んで、この蓋をきちんと閉めて閉じ込めてしまおう。そうすれば私の心は2度と傷つくことはないのだ。
私はそう考えると、自分の人を好きになる心をその四角い側溝の箱の中に入れ、きちんと蓋をして閉じる場面を想像しました。
現実の側溝の蓋には開け閉めできるように穴が開いています。
開け閉めの穴、穴が開いていると誰かが入ってきてしまう。蓋に取っ手があると開けられて心が取り出され、また傷ついてしまう。
どうしよう、私は迷いました。はっきりと人を拒絶するにはかなりの決断力が要りました。
終に私は、穴など無い、取っても無い、全く開ける所がない厚みのある平面の四角い蓋を何とか想像しました。
そして、今にもその蓋を四角い立体にドンとかぶせて、と、ホッとしようとした時、
「その蓋には開けられるように取っ手があるよ。」
思いがけずしゃがみこんでいた私の頭上から声が降ってきました。
「その蓋には、時期が来たらちゃんと開けられるように取っ手が付いているんだよ、ね、そうしておきなよ。」
それは紛れもないおー君の声でした。
彼が傍に来ているなんて、私には全く思いも掛けないことでした。