今から考えると、おー君に話したのは父か母だったのではないかと思います。
幼少の頃から、おー君の近所や彼のお母さんから、おー君が小遣い稼ぎに馬鹿な子の子守をしていると聞いていました。
今更ながらに、その子が自分ではないかと思えてきたこの頃です。
内心『父かな』と思っていました。
おー君を使って私の化学の道を諦めさせようと思っているのだろうか、そんな風に考えたりもしていました。
家に帰ってきた私は早速閉じてあった事典を開きました。
久しぶりで見る中身の活字や写真はやはり興味魅かれるものでした。
はーっとため息が漏れます。
にこやかな父と目があっても、私は事典を閉じずに父を無視して無言で事典を眺めていました。
何日かして、漸く父はおー君と私が今の時期には不仲となっている事に気付いたようでした。
改めて彼と昔仲が良かったのにどうしたんだとか、この前あんなに肩入れしていたのにどうなっているんだと聞いてきました。
「おー君とは、3年のはじめからもう付き合いはないの、友達じゃないし、特にあの人の話はないわ。したくもないし。」
と私は答えます。
父にするとこの前彼の名を持ちだして私が息巻いていたというのですが、
父と同様、それは過去の話で、過去に彼がそんなことを言っていたというだけに過ぎない、
今は全く私と関係ない話だ。と、答えると、
父は全く鼻を摘ままれたような話だとか、寝耳に水の話だとか言っていましたが、
私は全く父の話の相手にはならないのでした。
「今はもう、全く好きでもないの。どちらかと言うと友達でもないし。おー君の話は聞きたくないの。」
そう言うと、私は目の前の事典に没頭して父の言葉などどこ吹く風と聞き流してしまうのでした。