2年制の大学に通っていた私の短い学生生活はあっという間に過ぎてしまいました。
就職先が決まらないまま公務員の待機期間で自宅に1年、その後資格を取る為に専門学校へ通って1年と、あっという間に4年制の大学へ行った同級生と同じ年月を過ごしてしまいました。
こうなると、期間だけでいえば普通の大学に行ったと同じ事だと、県外に行くなら費用の関係で短大でないとダメだと言った父につい不満を言ってしまいます。
就職が決まらないのも何だか父のせいに思えてしまいます。
私の学校は、大学の有る地元での就職が多い学校であったので、跡取りだからと出身地に帰って来たのですが、こちらの就職先が決まらず、最初の年はまだ公務員になれるかもしれないという希望がありましたが、1年間採用されることが無く、次の年になるともう就職浪人という立ち場になってしまいました。
この間親の方でも短期のアルバイトなど頼んでくれましたが、全く就職には結びつかないのでした。
当時お社会は卒業後1年過ぎると何処へ行っても後の祭りです。
公務員にしても待機期間の内に来てくれれば何とかなったのにと親戚の人に言われる始末です。勿体なかったねで済ませられてしまいました。
父は後々、お前の時には失敗したとよく口にしましたが、この父の言葉を聞くたびに私は内心かなり腹立たしく思ったものです。大学の所在地にはそれなりに就職先も多くあったのですが、全く就職活動せずに帰って来てしまったことが悔やまれました。また、公務員名採用者名簿に載っているからと、気楽に思ってしまったことも就職で失敗した原因だと思えます。
この頃は、跡取りの責任でもあるきちんとした就職先が決まらないので、かなり気落ちした時期でした。
家の家業も無く、安定した就職先を希望していた私は、公務員試験に受かったことでホッとしていたのですが、受かって採用予定者の名簿に載るだけでは安全圏ではなかったわけです。
それでも、3年目には親戚の紹介で小さな会社に勤務することになり、漸く一息つくことができました。
この頃は友人の結婚ラッシュでした。私は県内外の友人の結婚式に参加して楽しく過ごしていました。友人スピーチも頼まれたので四苦八苦したものです。
そんな時式場で、どちらの方かと聞かれ、ご兄弟はと聞かれることもありました。姉妹の上だというと、それではだめねと言われ、婿取りさんをお嫁にはもらえないと言われることもありました。
やはり世間の常識では姉妹の上は跡取りとして家に残る、というのが普通の時代でしたね。今もそうだと思います。
それから1年程して社会生活にも慣れた頃、ある日私は遠出して外出先から電車で帰ってきました。
駅の出口に向かうと、中央の入り口から入って来た2人連れがいます。
何気なく先を歩いていた男の人と目が合うと、め―さんに似ていました。ハッとしましたが、め―さんがこんな所にいるとは思えませんでした。
私が2人に近付くにつれて、先を歩いていため―さんに似ている人は横にそれていったのですが、後の人に此処は何処だっけ?と聞いている声が聞こえました。
め―さんの声かな?と考えていましたがはっきりしませんでした。似ているようにも思いました。戸惑っている内に私は駅の出口を出てしまいました。
振り返ってガラス越しの駅内を見ても2人の姿は認められず、私はふと、その時の自分の年齢を考えていました。
24か
そして、ある日のコンパでのめ―さんの言葉を思いだしていました。
「Junちゃん、23までは結婚しちゃだめだよ。結婚するなら23を過ぎてからにしなさい。」
急な話なので私にはよく分からず、返事もせずにいると、め―さんが繰り返されました。
23まで結婚しちゃだめだよ、結婚するなら23を過ぎてからにしなさい、いいね。そう言われるのです。
お酒の席の事だ、そう深い意味もないのだろうと、私は、ええ、分かりました。と答えておきました。
結婚するなら、23を過ぎてからですね。と。
そうか、と思います。23は過ぎてしまいました。め―さんとのこの会話をすっかり忘れていたけれど、そんなことめ―さんと話したことがあったなと。
最後の合宿となったあの日よりかなり前のコンパの時のことです。
め―さんの事情が変わる以前の事、約束というわけのものでもないけれど、私が23歳になるまでにめ―さんにその気があれば、お嫁に迎えに来るという意味かなと私は勝手にそう解釈したりもして、ほんのりと嬉しく感じていました。
今まで、何となく無意識の内に結婚について考えなかったのはそのせいかなと自覚します。
そうだ、もう24歳になったのだから、私も結婚について本格的に考えなければいけないな、そう思うと、今、め―さんに似た人に会ったことが1つの区切り、過去への借別の時なのかもしれないと考えます。
私は駅の方向に振り返りました。そして今すれ違った人が、さもめ―さんであったかのようにさよならと手を振るのでした。
…ここまで長かったですね、「娘十八番茶も出花」の頃のお話です。お粗末。