Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダリアの花、200

2017-06-05 21:46:49 | 日記

 「おっちゃん、こんにちは。」

蛍さんの父が、病室でしょんぼりと肩を落として椅子に座っていると、明るい声がして甥が入って来ました。

蛍さんの従兄で、次兄の長男に当たる青年でした。昨日の一件があるので、彼は内心嫌な感じがしました。

が、この甥は常日頃家の近所に住んでいるという事もあり、生まれた時から彼が可愛がっている甥でした。

 「ああ、おう、お前来たのか。」

蛍さんの父は何事も無かったようにそれだけ言うと、一寸微笑んで向こうが何か話し出すのを待ちました。

暫くは、お互いに笑顔を浮かべたまま無言の儘でいました。

「おっちゃんも、ちょっとおかしいな。」

そう甥は言うと、母も昨日家に帰って来てから様子がおかしいのだと、話し始めました。

 母は暗い顔をして溜息を吐き吐き玄関に入って来たと思ったら、そのまま部屋で蹲ったまま青い顔をしていて、家の誰が何を言っても上の空で、

到頭実家に帰る事になった、とだけ言って涙を流したりしていると言うのでした。

 「そうだろうなぁ。」

と蛍さんの父は頷きます。

それでこそ人というものだ、返って平気な顔をして澄ましているのだとしたら、それこそ人というものだ。

そう思うと彼は黙っていました。彼は流石にこの甥に、昨日起こった出来事について話す気分になれませんでした。

 「母さんとおっちゃんの間で何かあったのか?」

遂にそう蛍さんの従兄は切り出しました。

おっちゃんも様子がおかしいじゃないか、そう甥に問い詰められて、蛍さんの父は如何言ったものかと思案します。

『いや、これだけは言ってはいけない。』甥の為にも言わない方が良い、と彼は思うのでした。

「大したことじゃないよ。」

蛍さんの父がそう言った切り、部屋の中には静寂の時が流れます。

 ずーっとだまり込んだ儘、無言の儘の叔父に、ついに彼は言いました。

「いいよ、そんなに何も言えないのなら、こっちだって無理には聞かないから。」

言えない事があったとだけ思っておくから。父も母にそうすると言っていたから僕もそうする。

そう言うと、彼は母と叔父の間で何があったのかを詮索するのを止めにした気配でした。

 ここで甥は、ふっと息を吹き出すと思い出し笑いをしました。

「おっちゃん、蛍ちゃんに怪我をさせた子って、今診察室にいるあの子だろう。」

「いい気味だったな、流石に神様はちゃんとこの世を見ているものだ。悪い奴には天罰が下るもんなんだな、これこそ天誅というものだ。」

そう言って目を細めて笑うのでした。その笑顔は二番目の兄の笑顔に似ていました。蛍さんの父はやはり彼に身内としての親しみを覚えるのでした。

甥はくくくと口に手を当てて忍び笑いをしていましたが、遂に堪え切れなくなって吹き出すと、はははははと、実はねと叔父に打ち明け話を始めるのでした。

 「僕、病院に入る前にあの子と道で遭ってね、あいつすごい勢いでこの病院から飛び出してきたんだ。

僕、誰だか知らないけれど危ないと思って避けたんだよ。その時顔を見たらあの子だったんだ。」

包帯を巻いていたけれど僕にはよく分かったよ。毎年見る顔だからね、何時もホーちゃんと揉めるし。

思わずホーちゃんの敵と思って、それは思ったんだけど…と、ここで彼は言葉を切りました。蛍さんの父は嫌な予感がしました。

 「おい、まさか、お前あの子に何かしたんじゃ無いだろうな。」

蛍さんの父が怖い顔で甥を詰問すると、彼はちょっと寂しそうな笑い顔を浮かべ首を振りました。

何かあったのか?そう繰り返して叔父が聞くものですから、彼は言い渋っていた出来事をぽつりぽつりと話し始めました。

 「あの子とすれ違う時に、あの子の勢いに思わず僕は体を避けたんだけど、その時避けた僕の片足に、…」

片足に?如何したんだ?何があったんだ?、気色ばんだ蛍さんの父はその先の甥の言葉を促します。

「僕はそんなつもりはなかったんだよ。でも、あの子丁度上げた僕の足に引っかかってしまって…。

あの子すごい勢いで走って来てたから、その勢いのまま、そのままどーんと電信柱の所に吹っ飛んで行ったんだ。」

僕はそのまま電信柱にぶつかったんだ、大変だと思ったら、電信柱にぶつかっただけでも酷いのに、

ああ、あの子あまり運が良くない子だよ、ぶつかった途端グサって音がしたんだ。

多分酷い怪我をしたんじゃないかな、そう思ったら、案の定、看護婦さんに聞いたら縫う程の怪我だって言ってたよ。

どうも傷が残るらしい。顔だろ、気の毒に、まだあんな小さい子なのに、いくらホーちゃんの敵でも可哀そうだと思って。

 甥の話が終わると、蛍さんの父は顔色を失いました。

「顔に?、傷が残るのか、あの子?」

そうだと思うよ、相当深い傷だという話だったから。僕わざとじゃないからね、向こうが勝手に僕の足に蹴躓いたんだよ。

ホーちゃんも可愛そうだけど、あの子も可愛そうな子だ、運が無いよ。

そう言って蛍さんの従兄は何かしら後ろめたいものを感じたのでしょう、顔を曇らせたのでした。

 病室にはしーんとした空気が張り詰め、誰も物を言う人がいませんでした。

寝ていた蛍さんが静けさに気が付くと、つくつくほうしの蜩の声が中庭に響き渡っています。

残暑にかかる気だるい暑さが、重く周囲に染み渡っているのでした。

 

 

    「ダリアの花、前編」…夏に向けていったん終了です。


ダリアの花、199

2017-06-05 20:36:25 | 日記

 「そんな話があったなんて、私は初耳です。家内に確かめてみます。」

光君の祖父が真顔でそう言うものですから、蛍さんの父と祖父もこれはと看護婦さんの話の方が眉唾物じゃないのかと感じました。

何しろ光君の祖父の性格が、歯に衣着せぬ言い方をする真摯な人柄という事が分かっていましたから、言葉の通りで嘘はないと思えたのでした。

 それで、と、光君の祖父は再び口を開きました。

「何故この病院に来られたんです?一旦お家に帰られたのではないのですか?」

わざわざこんな遠い病院まで来られなくても、お宅様は街中の方、お家の近くに良い病院が沢山おありでしょうに、

「私の方が不思議に思っていたのですよ。こんな田舎の家の隣の病院で、昨日の後、先程初めてお会いしたのですからね。」

孫の光の方は大層喜んでいましたが、私にすると驚きでした。あの後ずーっと入院しておられたのだそうですね。家の子のせいだったんでしょうか?

「どうしてもっと早くに申し出てくださらなかったんです。」

こちらでも誠心誠意事に対処いたしましたのに。と、ここ迄一気に言うだけ言うと、光君の祖父は肩を落とし、蛍さんの病室から出て行こうとしました。

 こうまで言われては、こちらが誤解していたのだと蛍さんの父も祖父も気付きました。酷く極まりが悪くなり頬も赤らんで仕舞います。

 「いやいや、こちらに誤解があった様です。真に申し訳ない事です。失礼致しました。」

出て行こうとする光君の祖父の背中に慌てて言葉を掛けて、蛍さんの祖父は、

「本当に申し訳の無い、どれ私にお宅様の坊ちゃんのお見舞いに伺わさせてください。」

と明るく先方の気を引き立てるように言うと、光君の祖父と同行して蛍さんの病室を後にしようと、彼に続いて廊下へ出ようとしました。

 それを手振りで軽く制して光君の祖父は言いました。

「いえいえ、それには及びません。孫はまだ治療中でしょうし、私も家内に先程の事の真偽を確かめてみますから。

この場はこの儘少しお暇させてください。」

そう寂しく笑って言うと彼は病室内に深々と頭を下げ、その背に疲労感を漂わせて蛍さんの病室から姿を消したのでした。

 「返って申し訳の無い事をしたんじゃないか。」

あんな生真面目な人につっけんどんな言い方をして、だからお前は早とちりなんだ。と、蛍さんの祖父は息子を叱ります。

「だっておとっちゃん、おとっちゃんだって看護婦さんの物言いを聞いただろう。」

そう蛍さんの父は弁解するのでした。

「誰だって、変な事になっていると思うじゃないか。」

「そうなっていなかっただろう。」

そう蛍さんの祖父は息子の言葉を打ち消すと、ぷいっと息子から顔を逸らし、窓辺に歩いて行って病院の中庭を見下ろし気晴らしを始めました。

が、それでも気が晴れなかったのか、到頭病室からふいっと姿を消してしまいました。


います

2017-06-05 20:23:15 | 日記

 古くは三遊亭円楽さんでした。現在は新しい方が勤めておられますね。昔の志の輔さん?でしたっけ。

もう交代されてから長いので、忘れました。歌丸師匠も好きですね。仁鶴さんや、

もう亡くなられましたが、…名前が出てきません。顔だけ浮かびます。

創作落語のうまい方だったのですが、その内その方の名前を思い出すかもしれません。

 三枝さんですね、思い出しました。

検索したところ、まだ健在の方だったので、大変失礼をしてしまいました。申し訳ありません。

最近テレビを見ないので、こんな事になってしまいました。お名前が変わったのですね。

現在は桂文枝(6代目)さんでした。世事に疎い私の事、お許しくださいませ。