彼の方はそのまま帰るつもりでいました。親戚だと思うと、誰憚ること無く年下の従妹を思いっ切り揶揄う事が出来たのです。おかげで彼は頗る機嫌が良く、その日の外遊びを愉快に終える事が出来たつもりでいました。意気揚々と帰宅する彼の目に、赤く染まった夕日が麗しく映ります。
「綺麗だなぁ。」
と感嘆して彼は夕日を見上げました。
そこへ、後ろからやり込めたはずのおちびさんの声が掛かったのです。最初は気にも留めていなかった声でしたが、2度目の問いかけには彼もドキリとしました。しかし、何だおちびのくせにと思うと彼は気を取り直し、気楽に構えると振り返って彼女の方を見ました。その瞬間、彼はぎょっとしました。彼の目に、赤くメラメラと燃え盛る火炎に包まれた、怒りの形相をした閻魔様の姿が見えたからでした。思わず彼は目を見張り、その後手で自分の目を擦ると、まさかねと、その正体を見極めようとして恐る恐る目を開けてみるのでした。
『そんな馬鹿な事、こんな事実際に起こる訳無いよな。』
彼はそう思いながら、閻魔様がいた辺りを眺めてみます。するとそこには、先程目に映った閻魔様の姿は微塵も無く、彼の従妹と少し離れた横には遊具、そして視界後方には長い塀が何事も無く横たわっているだけでした。彼は尚もきょろきょろと周りを見回してみました。しかし辺りには何も変わった物はいなくて、やはり何も変わった所はありませんでした。
『やっぱり。さっきの物は見間違いだったんだ。』
彼はほっと胸を撫で下ろしました。そして再びにやにやすると、生意気にも年上の自分に対して質問をして来た従妹に、もう一丁揉んでやろうと思いながら近付いて行きました。その時です。辺りが急に暗転しました。彼の視界が闇に包まれました。彼は驚き、立ち止まり、思わず夕日のある辺りを見上げました。そこにはちゃんと大きな丸い夕日がありました。しかし夕日は彼の目一杯に広がって見え、飛び込むように彼の目に映って来ました。