「親戚の事だから。」「親戚のした事だから。」
彼女はよくこの言葉を父や伯父、彼等の親である祖父から聞いていました。何か親戚と揉め事があった時があるのでしょう、父に連れられて父の実家へ行くと、本家で親類の大人が集まって会合していました。身内のした事だからと、大目に見ておこう、許そうというような話をしているのを、数回彼女は小耳にはさんだ事がありました。それで、彼女にすると親戚は庇い合うものだ、許し合うものだという観念が、既にこの時迄に彼女の意識の根底に出来上がっていました。これは、損得抜きの経済観念以前に出来上がっていたものでした。
『親戚の事を悪く言うなんて、従姉妹とは思えない。』彼女は俯いて様々に考えを巡らせる内に、彼女なりの倫理観で従姉妹に対して無性に腹が立ってきました。容姿の見栄えがしない点は確かに真実だと自分でも思いましたが、似ていないと思う相手に準えられるのは納得がいかず、また、親戚に根拠の無い暴言をぶつけたという従姉妹の態度を考えると、祖父や父親の今迄の態度から考え合わせて、自分の一族の親戚には許されない行為だと思うのでした。彼女は顔を上げると、険悪な目で従妹を睨み、本当に父方の血が繋がる親戚なのだろうかと不審そうに眺めるのでした。そして、『今後の付き合いについて考えた方が良いのかもしれない。』と頭の中で考え始めました。
年上の彼女の方は、相手が飛び掛かって来るのを今か今かと待ち構えていましたが、何時まで経っても喧嘩をし掛けてくる気配がありません。それで、ちらっと横目で相手の様子を窺ってみました。相手は何やら視線を落として考え込んでいるようです。戦闘体制に無いのでちょっと安心しました。それでも、用心しながら徐々に顔を正面に戻すと、その時です、キッとした感じで年下の従姉妹がこちらを見るのです。これは、いよいよだなと感じました。彼女は先ほどより更に顔を相手から背けると、拳を握る手に力を込めて腕を上方に掲げました。そして、慌てて利き足を軸にしてもう一方の足を膝の所迄持ち上げました。