Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

土筆(71)

2018-05-15 10:06:56 | 日記

 私にはきっと輝く未来が待っている。自分は確実に玉の輿に乗れるだろう。彼女はそう確信すると、自分の未来への明るい展望や夢を延々と瞼の裏に描いてみるのでした。彼女の目の前には広大な映画の映像の様な世界が広がって見えていました。自分にはこんなに幸福で明るい未来が待ち受けているんだわ。なんて幸せな人生を送る事が出来るんだろう。彼女は自らの夢に酔いしれていました。そして、ふと年下の従姉妹のことを思い出しました。従妹には…、

 彼女は思いました。そんな幸福な私に比べて従妹には、あの自分とは雲泥の差の年下の従姉妹には、そう考えが及んで来ると、にこり、と彼女は微笑みました。そこで彼女は頬に靨を携えたまま、再び振り返って後ろにいる年下の従姉妹の顔を見やりました。と、その時です。

 今迄曇っていた空の下、施設の広場を包みくすんだ陰を落としていた雲が晴れて、雲の端から長塀の付近一帯に夕刻の赤みを帯び始めた日差しが、くすんだ大気をさっと吹き払い、広場の一角が明るく熱を帯びて金色に輝くと、その光が辺り一面に弾ける様にぱぁっと広がりました。

 「眩しい」

思わず私は叫びました。それまで大気がくすんだ世界に目が慣れていたせいです。私は、急に広場に差し込んで来た輝く日の光を瞳にまともに受けて、目に痛い程の眩しさを感じると閉口しました。くらくらと目が眩んで開けていられ無くなり、一瞬光から顔を背けてみたものの、その後は、何が起こったのかと目をぱちぱち瞬きながら自分のいる世界を眺めてみます。私は自分の周りの世界を見回してみました。が、目に映るのはカメラのフラッシュの直後の様に、溢れ返る金糸銀糸の光彩の塊ばかりです。私の視界は全く利きませんでした。


土筆(70)

2018-05-15 10:06:09 | 日記

 『丁度いいのかもしれない。』彼女は思いました。

 彼女の従妹は、丁度彼女が思い浮べた資産家の坊ちゃんと同じ様に、あっけらかんとした人の良い笑顔をその扁平で丸い顔に浮かべていました。彼女は面長で頬の高い自分の顔を元通り兄の方へ向け直して考え始めました。

 『あんな大した事の無い顔の従妹が好みだなんて、こっちから願い下げというものだわ!』

今迄、特別器量の良い私と不細工な顔のあの子を見比べて考えていたなんて…、そもそもそれが間違っていたんだわ。そう考えが及ぶと彼女は無性に可笑しくなりました。彼女はくくく…と忍び笑いを始めました。

 兄は自分の目の前で行われる妹のこの表情の変化に彼女の従妹への傲り昂りの感情を読み解くと、内心の高慢ちきな動きを察知して顔を曇らせました。俯いた彼の顔には酷く暗い影が差して、眉間にも皺が寄り始めました。「如何しよう。」思わず彼は呟くと、妹同様やはり何やら考え始めました。

 そんな兄の変化には気付かず、妹の方は考えれば考える程目の前が明るく開けてくる様でした。頬がバラ色に輝いて来ました。自分が将来出会うだろう大きな資産家を思い浮かべると、その人と恋をして、ウェディングドレスを着て花嫁になる自分の姿が浮かんで来ます。また、その後の生活を思い浮かべると、湖の傍のお城や、様々に花が咲く野原や背景の山、蝶や鳥が遊んで、空には虹が掛かっています。夜には舞踏会の様なパーティに溢れるご馳走。夜空に打ち上げられ、弾ける花火の美しさ、その響き渡る音さえ耳に響いてくるようでした。執事や召使が沢山いて…、と、夢見る瞳でここ迄考えて来ると、彼女は幸せの極地にいるのでした。