ついポロリと口を衝いて出てしまった言葉でした。彼女は直ぐに内心ハッとして後悔したのですが、出てしまったものは仕方がない、という具合に直ぐに諦めてしまいました。
『一旦口から出た物は、今更元に戻せるわけじゃ無し。』
そう思うと、彼女は兄と一悶着、揉める事を決意するのでした。彼女は今まで兄に並んで立ち、遜っていた態度をがらりと変えると、両腕を肘で引くようにしてぐーっと伸びをして身を反らし、体を開き直ると兄の方向に向かい体の向きを変えました。そして、思い切って彼に食って掛かるのでした。
「お兄ちゃん、なぁに、さっきは『…ちゃん』にいやに甘かったんじゃないの!」
何時ものお兄ちゃんと大違い、私のお兄ちゃんじゃ無いみたいだったわ…。目に涙が溢れて来ます。彼女は文句を言う二の句が継げず、ここで一旦言葉を切りました。そして、「変じゃないの。」「私の時とは違うじゃない。」ぽつり、ぽつり、と口を開く内に、
「ひくっ…」
彼女の喉はしゃくり上げて来ました。続いて込み上げて来る嗚咽を彼女は必死に堪えました。年下の従姉妹に泣き顔を見られたくはありません。くるりと彼女に背を向けると、再び兄と並んで立ちました。おかげで兄妹で体が表裏に並ぶという、見た目に妙な並び具合となりました。
彼女は込み上げて来る嗚咽の為に起こる肩の震えに困っていました。泣いている事を後ろにいる従姉妹に気付かれたく無いと思うと、喉に上がる溜飲を必死に押し殺していました。兄への文句がまだ足りなかったのですが、口を開けば涙声になってしまいます。その為声には出せません。それでその代わり、とばかりに涙で潤み紅くなった目で、きっ!と横の兄の目を睨みました。