Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

土筆(75)

2018-05-19 09:26:18 | 日記

 が、その内、見ていた従妹が形よく手を上げると、手振り身振りで拍子を取り、くるくると優雅に数回まわって見せるのです。まるで何かの舞を舞って見せてくれているよです。彼女は驚きました、そして、従妹は何時の間にそんな芸達者な真似が出来るようになったのだろうかと思うと癪に障り、眉間にきっ!と皺を寄せました。

 その後も、従妹は得意げな顔を見せたかと思うとくるりと舞って、おう!とばかりに立ち止まると、深々と目を閉じて肩の辺りまで上げていた両の手を静かに下ろし、能か何かの溜めのポーズの様に型を決めたのでした。これには流石にほぉー、とばかり彼女も目を見張り、おうおうと傍らにいた兄と顔を見合わせると、へええ…、やるじゃないか、これは凄い!と感心したり、おちびのくせに何をしてくれるのだ、いつの間に習ったんだ。叔父さんも内緒にして、出し抜かれたわ。と、兄妹思い思いに呆れて感想を漏らすのでした。特に彼女は従妹のこの習い事について全く気付かなかった事を不覚にも悔しくも思うと、自分で自分を小馬鹿にした様に苦笑するのでした。「…ちゃんにしてやられたわ、私も内緒で何か習おうっと、何がいいかな。」そうふざけた様に、内心は苦々しく思いながら呟くのでした。

 妹のこの言葉に、兄は一瞬顔を曇らせましたが、目の前で実際に見た叔父方の従妹の雄姿に、どっちもどっちかなと思うのでした。しかし、あの全く正直一途な叔父が、自分達にこの様に上手く隠し事が出来る物かどうかと怪しく思うのでした。従妹の年齢にしては上手過ぎる所作もどうも腑に落ちません。叔父が娘の習い事を自分達の父である兄にさえ話していないということは無いだろう、父が聞けば必ず自分達、少なくとも跡取の自分には話してくれるはずだ、きっとそうだ。そう思うと、兄の方は従妹のこの芸達者な舞が如何にも摩訶不思議な出来事であり、全く信じられない事だという気持ちになるのでした。

   『夢かしら?』

自分で頬を思いっ切り抓ってみます。「痛い!」。勿論これは夢ではありません、彼は悲鳴を上げました。


土筆(74)

2018-05-19 08:21:21 | 日記

 夕刻にほど近いと感じる春の太陽は、日中より威力が衰えたように見えました。それでもまだ位置は空色の宙に浮かんでいて形は丸く見えていました。その光も目に収め切れるようでいて、収め切れない輝きをまだ発して来る眩しさのままでいました。いえ、私が見詰め始めた時よりいっそう白さが増したようでした。勢いを取り戻したように白金に輝き始めた太陽から目をそらして、私は太陽の眩しさやその光に触れた時の暖かさに付いて考え始めました。

 それまで、大人から太陽は人の目に悪いから見詰めてはいけないと聞いていました。しかし、と今回私は思いました。目を射る眩しさは確かに人の目に悪いけれど、その明るさや暖かさは人に必要なものじゃないかな。太陽は人には大事なものじゃないかな。お日様が人にとっては必要だという、そういう事が酷寒の冬を何度か越して春の季節の中に居る私には分かって来ました。

 『自分にとっても太陽は目に悪い。それでも太陽はありがたい物だ。』

特に寒がりの私にはそうだ。そう判断すると、自分が沈んでいた時に明るく顔を出してくれた太陽が、まるで私の為に出て来てくれたような気がするのでした。最初は酷く眩しくて嫌いだったけれど、お日様は私に味方してくれたんだわ。そう私は誇らしく思うと同時に、益々太陽が好きになるのでした。ふっと笑顔になると「私の太陽。」とお日様に話し掛け手を振るのでした。

 さて、時間は少し戻って、先刻振り返った年上の従姉妹の方です。急に日差しを浴びてその眩しさに右往左往する自分の従妹の様子に、太陽の事には全く気付かず何事が始まったのだろうと思いました。一瞬笑顔になり、その後しかめっ面をしたり、手や顔を振り回す従妹の滑稽な仕草。彼女は従妹が何をはしゃいでいるのだろうと呆気に取られて見ていましたが、その内、さも子猿か何かがきゃっきゃとはしゃぎ回っているようだと、はははと、可笑しくて声に出して笑って仕舞いました。