「別にあの人は彼氏じゃ無いんです。」
それに喧嘩した訳じゃ無くて…。と、鈴舞さんはいい淀みました。相手には彼女がいる、という事まで言ってよい物かどうかと迷ったのです。そんな鈴舞さんの答えと狼狽ぶりを真っ直ぐに見て取ると、レジのお兄さんは言いました。
「じゃあ僕が君の彼氏になってもいいわけだ。」
僕と付き合ってみないか?と、如何にも真面目そうな表情で、明るく笑った瞳で語り掛けられると、鈴舞さんは行き成りの事で驚きました。
最初は断ろうと考えた鈴舞さんでした。目の前の彼が、同じ大学の校内でテキストやノートなどを持って歩いているのを、彼女は何度か目にした事が有るのですが、殆ど知らない相手です。同じ大学の学生なのだという事は分かっていました。ここでアルバイトしているのだろうと前々から思ってはいました。けれど、自分とは無関係な人と今まで思っていた人です。しかも客とレジ係としての会話しかしたことが有りませんでした。
『困ったな。』
そう思いながら、ふと、鈴舞さんの脳裏には大ちゃんの笑顔が浮かびました。『大ちゃんだって彼女がいるんだし、…』この機会に私も思い切って彼氏を作ってみよう。そう思うと、鈴舞さんはふん!とばかりに決意しました。
「お付き合いします。」
と、レジにいる彼に、彼女はハッキリと交際承諾の返事をするのでした。