「またお前から彼女を紹介されると困るからな。」
大さんは割合真面目な顔つきになると、鈴舞さんからやや顔を背けて言いました。
「だからもう俺に女の子を紹介する話は無しにしてくれな。」
と念を押すのでした。
その後、鈴舞さんは何時もの様に大さんと連立って大学まで行ったのですが、何となく2人の会話は遠慮がちになって仕舞うのでした。
『そうか、大ちゃんにはもう彼女がいるんだ。』
そう思うと、鈴舞さんは何だか胸にぽっかりと穴が開いたような寂しさを覚えるのでした。心のひだに秋風がスースーと吹き抜けて行くような涼しさを覚えました。その日の彼女の瞳には、校内のタイル張りの床が妙にすっきりと隅々まで見えて、講義室の部屋や窓辺の建材が妙にしんと心に沁みるのでした。
それからは、鈴舞さんと大さんが一緒に歩くという事は、極端に少なくなってしまいました。鈴舞さんの方はまだ見ぬ大さんの彼女に何となく遠慮してしまい、大さんの方はと言うと、やはり交際している事を鈴舞さんに告白してしまった手前、あっちもこっちもという様な器用な事が出来ないタイプだったのでしょう、本来の彼女オンリーとなった様でした。