みどりさんに気付いた彼女は、ふいと踊りを止めると、恍惚とした感じで動きの無い表情のままフラフラとこちらへ歩み寄って来ました。その足つきがもう心もとなく、どうにも足元がおぼつかないと言った感じでした。例えるなら高齢者のひょろひょろとした歩みのようで、同年代の若やかな女性の歩みとは思えないのでした。その光景に、鈴舞さんは愕然としました。
「燃え尽きた。」
そう壁に寄りかかってから、彼女が力なく呟く声が鈴舞さんに聞こえて来ました。鈴舞さんは苦笑いしました。何しろ鈴舞さんが彼女の様子に抱いた言葉『燃え尽きたみたい』を、その通りに彼女が自分の口から漏らしたからでした。
『そうか、ディスコでの踊りはこんなにも若者を憔悴させるのか。』
燃え尽きるか、と鈴舞さんはこの言葉を内心呟くと、ディスコで踊るという事に何だか不安感を持つのでした。会場がほぼ真っ暗な暗い室内だという事が彼女の好みに合わず、騒々しい音量の曲を聴くのも馴染めないのでした。誘ってくれたみどりさんへの思いや、流行を体験するという好奇心が有っても、彼女はこれ以上は深入りしないで、何かしら理由を付けて早々に退散しようと考えました。
大学の記念館の入り口から、明るい屋外に出て、鈴舞さんはほっとと息を漏らしました。そう躍ったという訳ではなく、2曲ほどで彼女は友人のみどりさんに別れを告げて、あとくされなくディスコ会場から退出してきたのでした。自分には合わない場所や踊りだと感じていました。何しろ、曲に合わせて自由に踊るという事が、鈴舞さんには酷く難しく感じるのでした。全く初めてで、どう曲に合わせて躍るのか、ディスコにはどんな踊りがあるのか、そんな事を考えていました。何が躍る基本なのか?そんな事を考えて、
「別にもう行こうと思わない場所なんだから…。」
こう呟くと、鈴舞さんはそれ以降、ディスコの事については考える事を止めてしまうのでした。彼女はのんびりとした足取りで、学舎の大通りから脇道へ入り、大学の中門から校外の住宅地へ入ると、帰宅する為に最寄りの電車の駅へと向かうのでした。