Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダンスは愉し 11

2019-02-02 12:58:58 | 日記

 そんな鈴舞さんにも、やはり気になり踊りたいな、と思う相手はいました。しかし、パーティ当日には会場にその人の姿が無く、緊張していた鈴舞さんは、彼の姿が見え無い事にほっと気が緩んだものでした。やはり好きな相手と躍るには緊張感が走ります。もし手を繋いで、相手のことが好きだという感情が顔に出たらどうしましょう。そんな事を考えていた未だ19歳の鈴舞さんでした。

   そこで会場に着くや否や、彼女はお目当ての彼をきょろきょろと探してみました。が、彼がいない事に気づいた時、がっかりすると同時にホッとしもした彼女でした。その後の鈴舞さんは、心配の種が無くなり落ち着いてパーテイー会場を観察してみたりするのでした。

 室内には紙皿に盛りつけられたサンドイッチ等の軽食が残り、ジュース類の飲み物のボトル等も数本残っていました。『少しいただこうかな。』、会費は払ってあるから当然食べてよいのだろうと、空腹を覚えた鈴舞さんは思いました。

   彼女が食べ物に近付くと、ああと、世話役の男子学生の1人がそれを制しました。

「それは食べたり飲んだりしない方がいいよ。」

と彼は言うのです。「それは卒業生の先輩用だからね。」と、さも意味ありげな含み笑いを浮かべて彼は鈴舞さんに言いました。それで物慣れない鈴舞さんは、彼に嫌な感じを受けるのでした。ちょっと意地悪されたような気分になりました。『もう、結構大きいのに。相変わらず男子は子供っぽく女子を苛めたいのかしら?』そんな事を彼女はふと思いました。

   彼女の先輩の方は、流石にこの時期の予餞会の事情に通じていて、この食べ物には何か仕組みがあるのだなと悟りました。それで空腹そうな鈴舞さんの顔を見て、もうここを出て、どこか喫茶店ででも一休みしようと鈴舞さんを誘いました。

「私もここの食べ物は食べない方がいいと思うわよ。」

鈴舞さんの先輩に当たる、橙さんは微笑んで後輩に言いました。そして先に立つと出口へと歩み始めました。鈴舞さんも手早くコートとバッグを手に持つと彼女の後に続きました。彼女達の餞別会は終了しました。

   


ダンスは愉し 10

2019-02-02 12:34:53 | 日記

 さて、ダンスパーティー当日です。練習とは違い、サークル員はそれぞれに思い思いのパートナーが出来上がっているようでした。サークルに勧誘してくれた先輩と鈴舞さんが会場に入ると、如何やらもうパーティーはお開きになって、皆女性陣は帰る支度をしているようでした。

「あらっ⁉」

と鈴舞さんがお驚いたのも道理、女性陣の半数近くは帰ってしまい、残っている皆もコートなど身に着け、バッグも手に持ちもう帰るだけという出で立ちでした。男子も数人、世話役の係だけが申し訳に残っている感じでした。これは何故かというと、鈴舞さんを引率してきた先輩が時間を間違えていた事が原因でした。

「3時からじゃ無かった?」

「13時からだよ。」

先輩の問い掛ける声に、男子学生の1人が答えました。十を付ければ今は15時でした。予定では丁度2時間ほどのパーティ―であり、程よく卒業生とカップルになった後輩、又は同輩の女子学生はさっさと思うような2次会に出て行ってしまった後なのでした。

 引率の先輩が、失態をしたと目に見えてがっくりと気落ちしたのは当前でしたが、好きなダンスを踊れると、うきうきと期待に胸を膨らませてやって来た鈴舞さんも、少なからず意気消沈してしまいました。

   そんな鈴舞さんや先輩の、女子学生の落胆を見過ごせなかった男子数人が残って、後からやって来たサークル員の女子2人と気楽に2曲ほど躍ってくれました。鈴舞さんの先輩は、それでもお目当ての先輩が消えてしまったので半ば落胆気味でしたが、踊れればいいわというだけの、まだ新参で一年生の学生だった鈴舞さんには、踊りが2曲だけで終わったという事が残念でした。

   実は先輩には、卒業で憧れの先輩と別れる前に、手を取って踊りたかったという淡い思いがありました。そんな先輩の悲しい切なさが無かった点、物足りないダンスパーティーで終わったわ。という不満足感だけが残ったのが、鈴舞さんの方でした。