鈴舞さんと、社交ダンスサークルに入っているパン屋さんのアルバイト学生、春野雄介さんが付き合い始めてから早や1ヶ月ほどが過ぎようとしていました。鈴舞さんは彼に誘われて社交ダンスのサークルに入る事にしました。彼女は今日は初めてサークル活動が行われている、大学の記念館へとやって来ました。学校祭でディスコ会場になっていた場所です。
サークル活動開始時間にはまだ間がありました。春野さんと誘い合わせて会館に入ると、室内にはもう数人が先に来ていて思い思いにステップや踊りの型の練習をしていました。鈴舞さんは興味深くその人達の動きを眺めてみました。簡単そうでいて、そうかというと、覚えようと思うと直ぐには覚えられない動きの雰囲気でした。
『ちゃんと覚えられるかしら。』
鈴舞さんは、踊りを覚える時は何時もそうであるように不安感を覚えました。そんな鈴舞さんの不安に気付いたのか、雄介さんは優しく穏やかに声を掛けました。
「簡単な基礎ステップから始めようか。」
すぐに覚えられるから、このステップが基本だからよく練習するといいよ。と、スロー、スロー、と、右足、左足と、雄介さんの基本ステプの教授が始まりました。
「おい、春野。新しい子なら紹介してからにしてよ。」
先に来て練習していたサークル員の男性の1人が、勝手に練習を始めた雄介さんにこう声を掛けました。サークル員への新会員の紹介を促したのです。
「まぁ、今日は軽く見学の子だから。」
そう雄介さんはその男性に言うと、鈴舞さんに、「皆がそろってから紹介するけど、入会でいいよね。」と、社交ダンスサークル入会承諾の、彼女の意思を確認するのでした。
「OKよ。踊りは元々好きな方だから。」
鈴舞さんはにこやかに、少し彼との交際に慣れて来た自分のボーイフレンドの雄介さんに答えるのでした。