「大ちゃんはいい人だから、みどりさん、目が高いかもね。」
そう言った鈴舞さんは、話題の主のご近所さんが、よく彼の母に叱られていたおねしょ時代の幼い姿を彷彿とさせるのでした。神経質かもね、彼女はぽっそりと呟きました。
さて、会場になっている記念館の中へと2人が入っていくと、ダンダンと大音量の音楽が聞こえ、室内は暗幕で暗くなり、セロハンをうまく色合わせしたミラーボールなども回っているのでした。舞台装置で使う三色の光線などもくるくると回り、係が上手く会場の雰囲気を、本物のディスコ店内の様に盛り上げていました。
「あら、来たの。」
声のする方を見ると、みどりさんのフォークソンググループの、仲間の1人が彼氏らしい男性と入り口近くの壁に並んでもたれています。彼等は休憩中のようでした。みどりさんは愛想よく話に行くと、もう1人のグループ仲間の事など聞いているようでした。
「彼女なら、あそこよ。」
そういう声が聞こえ、鈴舞さんがみどりさん達の視線の先に目を遣ると、彼女のフォーク仲間の残りの1人は、なるほど、時折クルクルと交差する光が人影を映し出す闇の中で、陶酔したようにボンボンと体を波打たせていました。
『何時もは純和風で、目立たなくて大人しい顔立ちの人なのに。』
鈴舞さんは目をぱちくりとさせました。放心したように躍っているみどりさんのサークル仲間の顔付を見ていると、常とは違う彼女の雰囲気を感じるのでした。心此処にあらず、その顔には何の感情も表れてはいなくて、鈴舞さんには踊る彼女の顔が、何だかやつれた日本人形の顔の様に映ったのでした。