「ミルのお祖父さんもお歳だから…。」
話の途中で、ふと彼女はそう言うと、言い淀みましたが、
「一人暮らしはもうそろそろきついのかもしれない。ミルの両親に帰ってきてもらえるとよいのだろうけれど。」
彼女は静かにしんみりとした声で話すのでした。お祖母さんの時も、体調が悪い時には何方も大変そうだったわ。あの時にはミルも手伝っていたけれど、家の母も気にかけていたのよ。私も心配だったわ。
そう言われて、ミルは祖母が亡くなった当時の様子を思い出しました。当時も今も、なかなか帰省するという事が出来そうもない彼の両親の様子です。ミルは深く考え込んでしまいました。
『自分が帰って来るという訳にも行かないし。』
任務中の身の彼には、すぐに仕事を辞めて帰郷する事が出来ないのでした。こうやって休暇だからと帰れたのが珍しい事であり、本来はやはり宇宙へ出たっきりになるのが普通でした。ミルの様な艦隊士官達は、なかなか故郷へは戻れないものなのでした。
「なかなか難しい問題だ。」
ミルは答えに窮して絶句してしまいました。
「ところで、家の事はさて置いて、」
話に困ったミルは話題を変えました。
「君が彼と結婚するとは思わなかったよ。」
彼は祖父から彼女の結婚についての話を聞いてから、不思議に思っていた疑問に話を移しました。何故彼と結婚したのかという訳です。
「彼とは幼馴染だっただけ。」
そう答える彼女に、それなら僕もそうじゃないかと苦笑して、ミルは悪戯っぽく言い迫ってみるのでした。
「何が彼と僕の間にそれだけの差をつけたんだい?」
彼女は困ったような微笑みを浮かべましたが、ミルと同じ様に悪戯っぽく笑うと、実は…と、心安く打ち明け話をしてくれるのでした。彼女には長の年月彼と共に委員仕事をした経験から、彼のオーラを見るまでも無く彼の性格や人柄がよく分かっていました。夫以外で結婚するなら、この星の上では、彼女はきっとミルを選んだ事でしょう。