幼い日のある日、彼女は山の中腹にある高台から景色を眺めていました。すると彼女は眼下の野原で動いている2つの影を発見しました。何だろうとよく見ると、それは地球でいうなら兎に当たるような小動物と、それを追いかけている1人の少年でした。彼女が更に注意して少年の顔をよくよく見てみると、少年は彼女には全く見覚えが無く、あれは誰だろう?と怪訝に思ったのでした。彼女がそのまま続けて眺めていると、少年はなかなか捕まらない小動物にしびれを切らし、追いかけるのを止めてうううと苛立つと、その場で悔しそうに自分の周りの草をブチブチと引き抜き、エイ、エイ、と投げ捨てるのでした。
ハハハ、可笑しいわね。と、彼女がその少年の悔しそうな様子を滑稽に思い笑って見ていると、幾つか抜いた草が他の草の上で無残に横たわっている姿に、その光景を眺めていた少年はピン!と何だか閃いた気配になりました。その瞬間輝くようなオーラがその少年から発せられるのを彼女は見たのでした。
『ひゃぁー!。あんな輝き、この辺りの子で見た事無いわ。』
彼女は目を見張り、そんな少年の姿に一種の感銘を受けました。
一方見慣れない少年の方は、抜いた草を一心に集めはじめました。少年は他にも幾つか新たに草を抜くとそれらを抱え込んで来てその場に座り込み、熱心にひたすら草を編み始めました。彼女が見ていると、彼は草で編んだ縄を幾つかの輪にしてそれで如何やら罠の様な物を作り上げた様でした。彼は野原を見回すとさっきの動物の動きを計り、相手の進行方向を見極めるとそれと決めた場所に罠を仕掛けたようです。
自分の仕掛けた罠と草むらに潜む小動物を見比べながら、意味深にニヤニヤ笑いする彼の顔に、彼女は彼の意図を読み取るとそううまく行くかしらと怪しみ、また悪戯っぽく微笑みました。彼女はそっと息をひそめると眼下の少年や、彼が追う動物の様子をじっと見詰めました。
彼は何気ない風で小動物の後ろに回り込みました。先程と変わらない様に動物を追いかけてはいますが、彼は今度は盛んに声を上げています。そして動物を上手く罠に追い込むと、彼はまんまとその小動物を射止めたのでした。
「はっはっは…。」
得意げに高笑いして、罠にかかった小動物をぶら下げて自分の目の前に持って来ると、彼はその動物の顔を見つめどんなもんだい、してやったりと、如何にも得意げに鼻先にふうっと息を吹きかけるのでした。その後少年は喜々として、野原の草を掻き分け掻き分け、意気揚々と引き揚げて行くのでした。高台にいた彼女はへーっと感心して、そして思わずくすっと息を吹き出しました。その少年の得意気な様子が如何にも堂に入っていて、妙に子供っぽいと感じたからでした。
「酷いなぁ。」誰もいないと思っていたよ。当時の幼い自分の尊大な様を思いやり、思わずミルは頬を染めてしまうのでした。
「あら、褒めているのよ、上手くあの動物を捕まえたわ。」
彼女は拍手すると、当時のミルの幼く誇り高い顔を目の前に思い浮かべ、再び興に乗ってハハハと笑い転げるのでした。