それはずーっと以前の事だ、と、彼女は話し始めました。彼女と彼女の夫はやはりこの裏山で出会ったのだという事でした。幼い2人は別々に、共に彼等の両親とこの山へ遊びに来ていたのでした。昼食後、両親と離れ1人雑木林の中に分け入った彼女は、そこで同じように1人で遊ぶ幼い頃のご主人と出会ったのでした。
話をする内に仲良くなった2人は、高台の花の咲く盆地に出ると思い思いに花を摘み始めました。彼女が花を編んで輪にすると、彼はそれを教えてもらい、どうにかこうにか同じように輪に編み上げると、お互いににこやかに花輪の交換をしたのでした。それは彼にも彼女にとっても生まれて初めての花輪交換だったのだと彼女は話すのでした。
「ロマンチックな話だなぁ。」
ミルは微笑んで言いました。最初の花輪交換の相手と添い遂げるなんて、運命の出会いだったんだね。感動したように言うミルに、彼女は「この辺は皆そうよ。」と、さも事も無げに答えるのでした。
「ミルだって、生まれた時からここにいればそうだったと思うわ。」
ここで彼女はちょっと残念な気持ちがしました。あの時出会ったのがミルであれば、自分は現在の夫ではなくミルと結婚していただろう。そうふと彼女は思ったのでした。彼女のオーラが揺らいだのを横目に感じながら、ミルはそれ以上彼女のオーラの揺らぎをを見ようとは思いませんでした。
「僕は新参者だったから。」
後から遣って来てそれまでの皆の均衡を乱しただけの人間だったのかもしれない。そんな言葉をこぼしてしまう彼なのでした。
「君とは学舎で会ったのが初めてだったね。」
遠い昔を懐かしそうに思い出す彼に、彼女は本当はそれ以前に私はあなたを見ていたのだ、と言うのでした。あなたは気付いていなかったけど…。と。