一瞬パチクリと目を見開いた彼女は顔を曇らせ俯いた。勢いよく走り出た歩みを落とすと、彼女は伏目加減でそろそろと彼女の母と姉の立つ場所に歩み始めた。が、彼女が数回母の顔を見上げる内に、その顔はにこりとした明るい表情を取り戻していた。
ぱたぱたぱたと元気よく、母娘2人の元へやって来た次女に母である彼女は言った。
「もう来てたんやろ。」
その声は明るく優しく、母親としての彼女の、通常の尋常で快活な声音となっていた。次女はコクリと頷いた。
彼女達母娘は、此処で問題の甥で有り従弟である男の子に対応する作戦を練った。姉妹は母から、先程彼女が祖父から受けたというアドバイスを聞かされるとえっ!と驚いた。
「そんな事を、」
「お祖父様が?。」
2人は口々に、意外だという自分達の感情を表現した。
「ええ、そうしたら良いとお祖父様は仰ったの。お前達の母である私にね。」
彼女は静かな声で控えめに自分の娘達に訴えた。お祖父様の気持ちが分かるかしら?。彼女は子供達の様子を探る様に尋ねてみる。
「分かるわ。」
次女は透かさず答えた。お祖父様に幸せになって欲しいと言われたものと。だが姉妹の姉の方は俯いて考え込んでいた。
「不思議だわ。何故お祖父様はそんな事を、」
そんな事したら私達が世間の人になんて思われるか…。と、ここで長女は母に進言した。
「もしかしたら、お祖父…、ちゃんは、私達の事を嫌いなんじゃないかしら。」
彼女は自分の母へ言い出し難く、抵抗感を感じながらも祖父に付けていた敬称を様からちゃんへと変えた。彼女達が祖父母と一つ家に同居の頃は、常に祖父の呼称は「お祖父ちゃん」であった。『様なんか付けたから、お祖父ちゃん機嫌んを悪くしたんだわ。』彼女は思った。それで私達に家を出ろと言ったのだ。彼女の気持ちは沈み込んだ。