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Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華4 51

2022-06-28 15:27:38 | 日記

 「如何したんだい。」

反射的に夫は妻に声を掛けた。「ずいぶん顔色が悪い様だが…。」そう言いつつ夫はハッと思い当たった事が有った。

「あれだね、またあれが悪い風を吹かせたんだ。」

我が家に、この家に、何時も悪い風を吹き込むんだ。あいつは逆風の様な奴だのう…。最後は夫の声も嘆息気味となり、か細く土間に向けて落ち途切れた。勝手口はシンとした切り、裏庭の方からも特に物音は聞こえて来無い。

 夫がこうなると妻は気落ちしていられない。彼女は一応庭に気を配ってみたが、如何したの?等、子供の声が洩れ聞こえて来ても、彼女の息子が彼女の孫に答える声が細々と続いて聞こえて来ても、そんな事、もう向こうに気など配っていられ無い、と彼女は思った。今は夫の事だけを考えるのだ、自分の子である息子はもう人の親、子の事はその子の親に任せれば良いんだ。彼女は決意して、庭に向けて分散していた彼女の意識を打ち切った。彼女は目前の夫にのみ自分の意識を集中した。

 「あいつだなんて、」

妻は思いつく儘気丈に口にした。凛とした自分の声で夫を、自分の気持ちを奮い立たせた。矍鑠とした彼女は、今は自分とは反対に、元気無く目を伏せ肩を落とししょぼくれた感の有る彼女の夫に辺り憚る事無く声を掛けた。

「あの子の事でしょう。」

念の為こう確認する。夫は妻に同意する様に軽く顎を上下した。勿論、あいつとは彼らの四男四郎の事だった。が、依然夫は視線を落とした儘だった。彼女は言った

「自分の子をあいつだなんて…。お父さん、よく無いですねえ。」

彼女は揶揄する様に彼の言葉を窘めた。いくら馬鹿でも、馬鹿な子でも、そんな子程可愛いと言うじゃないですか。

 「そう、それだよ。」

夫は急にハッと彼の肩を上げた。彼は物思いしながら妻に顔を向けると、つい先程の事を思い出している様子となった。「さっきお前が言っていた事だがなぁ。」考えながら、遠慮がちに夫は言った。彼の言葉が続いて来無いので、妻は考えながら馬鹿な子と言った。夫はまあそうだと言うと彼の口元を綻ばせ沈黙している。妻の見る所夫は寡黙に妻の次の言葉を待っているらしい。そこで彼女は可愛いと言うと、それは、まぁ、お前さんの、母親の目から見ると、そうなんだろうさ。愛想のない言い方で彼はボソッと零した。夫の物言いが不承不承なのを妻は怪訝に思った。