さて、その蜻蛉君の声にも茜さんは直ぐには返事が出来ません。ここで彼に愛想よく返事をしたら、彼女は蛍さんにきっ!と睨まれてしまうという事がよく分かっていました。茜さんは今迄の経験からその経過をよく知っていたのです。
彼女は蜻蛉君の呼びかけにそ知らぬふりをしながら、やはり従妹同様このゲームを途中で切り上げて帰る事が出来ないのでした。その理由も彼女の従妹と同様な物でした。蛍さんの父から茜さんの兄の曙さん、曙さんから茜さんと、最後まで頑張るという教育スタイルが伝わっていたのです。
そこで、茜さんも時間を掛けて嫌々スタート地点迄戻って来ました。蛍さんに負けず劣らずの渋い顔をして、気の乗らない一投を投げたのです。石は妙なバウンドをすると、先に進まずに蛍さんのコースにある穴にすっぽりと入り込みぐずぐずと振動し、そしてそのまま留まりました。彼女はげんなりしました。
『やっぱり、ホーちゃんが怒るとこうなるんだから。』
そうなのです、彼女がこのだんまりとツンツン態度を始めると、回りの遊び仲間達は、茜さんは勿論、例えば曙さんやその兄の東雲さんまで、皆思うような遊びの結果が出なくなるのでした。
これは心理的な物と言えばそうなのかもしれませんが、何だか急に何かに祟られているような嫌な抑圧感が彼らを襲うのでした。しかも、蛍さんが臍を曲げると如何いう訳か天候迄崩れて来るのですから、その効果は絶大、神がかってさえいるように感じられるのでした。元々今の場合同様、自分達が悪い場合に起こる現象ですから、其々に後ろめたさがあり彼等はぞ―っと背筋が寒くなるのでした。そしてそんな恐怖に震える中、その遊びを彼等は最後まで続けなければならないのです。「物事は最後まで」の叔父の言葉のおかげで。
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