しかし、自分の石の有る場所へ向かい、その儘その場で皆に背を向けて、しょんぼりと項垂れたままでいる無言の蜻蛉君の姿に、蛍さんの内心の笑いは引いて行くのでした。
蛍さんには内心、『蜻蛉君は残念なんだな。』と彼の気持ちがよく思いやられました。何しろ彼女自身が少し前まで負け続け、ほぼ毎日が最下位ばかりだったのです、敗者の気持ちが痛い程によく分かっていました。彼女は同病相憐れむです、しんみりとした気分で気が沈みかけました。しかし、と、彼女はここで強気にならなければと奮起しました。先程迄の蜻蛉君の横柄で冷淡な態度を思い起こしてみます。負けても良いと思っていた自分の親切に対して、知らんふりをしていた時の彼の態度の方を強く思い浮かべてみます。そうして蛍さんは彼は嫌な子じゃないかと思おうとしました。
けれども、今蛍さんが見つめる蜻蛉君の背中は本当にしょんぼりとしています。先程のさも得意げな彼の様子は微塵も無くその背は暗く沈んでいました。
『やっぱり、可哀そうかな…。』
蛍さんはそう思うと、うん!とばかりに歩み出し彼の側に近付いて行きました。彼の腕をぐいと掴み、そのまま何故こうなったのかという原因の窪み迄彼を引っ張って来ました。ほらねと、彼女は小さく穿かれた地面の穴を指さすとここで跳ねて石の行く方向が違ってしまったのだと説明しました。
さてそこで、最初は沈んだままの気持ちで彼女の説明がよく呑み込めないでいた蜻蛉君でした。確信していた勝ちを失った失望感で気は虚ろです。ぼんやり穴を眺めたり、何か言う蛍さんの顔を見つめたり、果ては茜さんの横顔を眺めたりしていました。そんな彼の視線に顔を背け、目を合わせないようにしている茜さんです。そしてその内彼はハッとしました。何となく何があったのか彼に閃いたのでした。
「僕にも穴が開けてあったんだ。」
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