『彼女が穴を?もしかすると僕にも?』
そうだったのか!と、蜻蛉君は天啓にも近い閃きに非常なショックを受けました。今迄のこの遊びの中での不審な場面があれこれと脳裏に浮かんで来ます。その時の茜さんの顔つきや態度など、心に留まった場面も後から走馬灯のように彼の脳裏を流れて行きました。その時は怪訝に思っただけでしたが、こう閃いてみると彼女の所作に思い当たる所が幾つか有りました。
同じ穴の狢、悪戯仲間とばかり思っていた茜さんが、勝つ為には気心の知れた仲間同士の自分にさえこうやって策を講じていたのだと、彼は初めて思い至りました。これは今の彼にとって生まれて初めての新鮮で衝撃的な出来事でした。
『そうか!、仲間でさえ勝負の上では別ものなんだ。』
彼はじーっと窪みを見詰めました。茜さんの勝負への執念と狡猾さを感じます。
それから、彼女と同じ様に勝負好きな彼は茜さんに負けた悔しさと、裏切られた無念さと、彼女の勝負に賭ける情熱に魅了されるのでした。彼女の生き様に共感めいた尊敬の念まで湧いて来ると、彼は爽快な気分で微笑して、その目をそっぽを向いている茜さんに向けました。
「これが寝首を搔かれるという事なんだ。」
彼は再び神妙な顔に戻ると俯き加減で呟きました。そしてもう1度彼女が作った作為的な窪みを見詰め、顔を上げると、自分の考えを確認する様に蛍さんの顔をじっと見つめ、横柄に尋ねました。
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