そんな2人の燃え上がる敵意のような感情を感じつつ、蛍さんは未だ昨日の勝利に照れた感情の中にいました。彼女は普段そう勝利の感情を味わった事が無いだけに、勝者がどのようにしてよいのか分からなかったのです。昨日も嬉しいという感情より驚きの感情の方が大きくて、やったー!というような沸き立つ歓喜の表現が出来ず、呆然となり呆然自失としていたものです。そんな蛍さんの自身の勝利に対しての変化の無い様子が、勝者である事に慣れていた他の2人には返って全然理解出来ない事なのでした。
『ふん、勿体ぶって。』
『嬉しいなら嬉しいと言えばいいのに。』
茜さんと蜻蛉君はそんな風に思っていました。2人は蛍さんの事を嫌味な人間だと思っているのです。年下だと思って遠慮しているなんて、女だと思って謙虚なつもりなんだ、と、自分達に対して蛍さんが慇懃な態度を取っているのだと誤解していたのです。負けて思いやられているのだと思うと彼等は自尊心が傷ついて酷く憤慨していたのでした。2人は表面抑えていましたが、内面には相当な憤りが湧き上がっているのでした。それは2人の瞳に険となって表れ、案外と世事に疎い蛍さんでさえそれとなく分かる程の妙なぎらつきのある光沢を発していました。
『今日はその天狗の鼻を圧し折ってやる。』
蛍さんの毎日の努力を知らない2人は、彼女の勝利をただのツキだと勘違いしていました。彼女が毎日石投げ遊びの練習する事で、相当に実力を付けて来たのだという事に気付かないからでした。2人は蛍さんが練習している事自体を知らないのですからこれは当たり前の事なのでしょう。事情が分からない内は人という物は表面だけしか見ない傾向があるものです。この事に関しては大人も子供もそう大して差が無いのでした。
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