「この穴ホーちゃんが掘ったのか?」
ごく平静な何時もの彼の声と調子でした。
「ホーちゃんの掘った穴だろう。」
蛍さんは思いも掛けない彼の言葉に、大きく口を開けると一瞬ポカンとしました。呆気に取られて言葉も出ないという状態です。そしてもごもごと口籠りました。暫くは本当に言葉が出ません。蛍さんはそんな自分の状態を自分でも不思議に思うのでした。彼女は誤解を解こうと何度か声を出そうとしました、が、やはり思うように言葉が出て来ませんでした。少し間をおいて、彼女は漸く声が出せるようになると、蜻蛉君にまさかと否定しました。
次に彼女は酷く憤慨して、何て酷い事を、そんな事私がする訳無いじゃないの、大体、この穴のおかげで蜻蛉君の石が穴から外れたんだじゃないの、その事を私は親切に教えてあげているのに、この穴をそんな私が掘っただなんて、…。と、顔を真っ赤にして蛍さんは彼に猛烈に抗議したのでした。激怒した蛍さんはもうこれ以上は無いという程の興奮状態に陥っていました。
「酷いわ、何てこと言うの、蜻蛉君なんて大嫌いよ!、もう遊ばないわ!」
彼から顔を背けると、彼女はぷんぷんとして腕組みし、ふん!とばかりにそっぽを向いてしまうのでした。
そんな蛍さんの憤る反応を蜻蛉君はジロジロと眺めていました。自分の言った事にどう反応するか、彼は蛍さんを子細に観察していたのです。それが、彼女が怒れば起こる程、何故か彼には面白く感じられるのです、つい笑ってしまいます。そして彼は、そんな自分達の様子に気付いているのか気付いていないのか、相変わらず我関せずで自分達2人のやり取りから身を背け、俯いている茜さんの様子もちらちらと窺い見ていたのでした。
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