今や私は引き戸のガラスに額をくっつけるようにして、しげしげと花の色合いを確かめていました。お店の中にポンポンと咲いている華やかな傘をあれこれと称賛していました。あれは如何これは如何、これは好みの色合いだ等。そしてよく見てみるとこれはどうもと、不満点に至るまで列挙する程の打ち込みようでした。この時の私は、店の前に立つ一端の傘の批評家と化していました。
私はこうやって一通り鑑賞すると、最終的にやはりこれが1番ね、いやあっちかな、と、最初に気に入った赤と桃色の傘2つへと目が戻って来ました。にこやかに両者を見比べてみます。桃色は可愛いらしく愛らしくまた美しい。赤い色は流石に艶やかで美しく正に美その物だと。雨の事など忘れ、絵画を鑑賞するような気分で傘に施された絵その物を愛でるのでした。
『今の私が買うとしたらこのどちらかね。』
結局、両者は私の中では甲乙全くつけがたく、何方か一方を選択する事が私には出来ないのでした。そこで『お店の人に決めてもらえばいいわね。』と思い、私は手持ちの金額で値段が折り合えば買おうと、傘を購入する決心をしたのです。
さあて、この段階での私は、お店の人に相談してどちらが良いか決めてもらおうという心境にまでなってしまいました。人の購買欲というのは不思議な物です。私は既に客であり、このお店の人の審美眼という物にある程度の信頼を置いているのです。私の中での当初感じたあからさまなお店の商魂は何処へやら。決して人の思惑には乗るまいと思っていた反骨精神のような物も既に無く、自身で自分が可笑しいと思いながら、私はガラガラと玄関戸を開けてお店の中へと入って行きました。
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