こんな決定的な例を2つ程思い浮かべた蛍さんは、やはり祖父母2人は仲が良いのだ、と、自分の考えに間違いはないと判断するのでした。
「そうだよ、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんは仲良しだよ。」
彼女は答えました。
「どうしてそう思うんだい?」
やや怒ったような言い方で、
「私達はそんなに仲が良くない筈だが、」
と、お前の答えは違っているというように、祖父は再び言ってみます。
あれれと蛍さんは思いました。彼女がこの時になっても祖父の言葉を鵜呑みにしないで、『変ねぇ』と思うのは、彼等の仲睦まじい場面や言動がこの後も次々と思い出されて来そうだったからでした。自分の見聞した祖父母の記憶が、幾つも証拠としてちゃんと蛍さんの脳裏に刻まれていたのです。
蛍さんは幼いながらにそんな仲良し夫婦に、良い物だなぁ、羨ましいなぁ、お祖父ちゃんとお祖母ちゃん達みたいな夫婦になるなら結婚してもいいなぁと、その仲睦まじさにほのぼのとした憧れを抱いていました。そんな訳ですから、彼女は決してこれ等の記憶を忘れる訳が無いのでした。2人は彼女の憧れであり、ずーっとそうであって欲しいと願う希望でもありました。所謂「仲良きことは美しき哉」であり、彼女は美しいものが大好きだったのです。
そこで彼女は記憶の中に有る祖父母のある日の言動を並べ始めました。この日はこんな事があってどちらが如何言ってどうなった。またこの日はあれをしていて何方が如何して如何言ってどうなったかとか。順に見聞した通りに祖父に話すのでした。だからお祖父ちゃんとお祖母ちゃんは仲が良いのだと。
その孫の話を聞く祖父の目が恥じらいと喜びに輝き、頬が赤く染まる迄に時間は掛かりませんでした。そんな風に照れて子供っぽい笑いを堪えた祖父の顔が、蛍さんの目には自分の父の顔に似て見えて来ました。祖父の顔は、何時も子供の蛍さんを面白そうに揶揄う父の顔でした。
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