夢中で蛍さんが練習する内に、どの位経ったのでしょうか、寺の入り口方向から彼女の母の姿が現れました。母はすぐに境内にいる自分の娘の姿を見つけました。蛍さんもそんな母の様子を、彼女の姿が現れた最初の時から気付いていました。母は子供の様子を窺いながらすぐに声を掛けました。
「ホーちゃん、」
そして蛍さんに近付くと、こんな所で一人で何をしているの、と苦しそうな笑顔を娘に向けて来ました。彼女は用心しながら娘に尋ねました。娘に泣きながら飛びつかれる事を恐れていたのです。彼女は育って結構重くなっていましたから、母にはその体重が負担に思えたのでした。
「石投げ遊びよ。」
勿論見ての通りだと、そう不服そうな顔で答える娘に、彼女は再び何時になく静かに微笑むと自分の顔を向けました。
「そう、でも、こんな所で一人で遊んでいるなんて、変じゃない?」
と問いかけるのでした。
勿論、蛍さんだってこんな広い境内で、しかも1人だけで遊んでいる自分の姿を思い浮かべると、先程の恐怖心も思い起こされて来て母の言いたい事は十分に察しがつくのでした。彼女は難しい顔をすると自分自身内心で苦笑せずにはいられ無いのでした。そこで、「変だけど…」とぽつりと答えながら、彼女は何時もとは違う微笑を湛えた母の顔や、その母が自分に対して優しい物言いをする事を怪訝に思いました。今度は反対に、彼女自身も母の様子をしげしげと窺ってみるのでした。
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