「いやぁ、本とに?。」
脱衣室からは大人の男性2人の楽しそうな笑い声が聞こえます。2人は小さなテーブルと、そこに備えられているやはり小さな椅子に腰かけて、思い思いの飲料が入った小さめの牛乳瓶をテーブルの上に並べていました。
「私はよく妻が栓を抜いてくれたものですよ。」
先程の要領でねと、紫苑さんはさも照れ臭そうにマルに話していました。ほおおとマル。それはよく出来た奥様でしたなぁ、奥様を先に亡くされたのは如何にも残念な事でしたなぁと、彼はさも無念そうな声で紫苑さんを慰めました。ここでやはりほろりとして涙目になって仕舞う紫苑さんです。一寸した些細な事が亡き妻との思い出に繋がってしまうのですから、男寡というのは極めて悲しい物です。今迄もマルは言葉を選び、相手の様子を見てかなり気を配って紫苑さんに接してきたのです。今回は心療専門のシルも来てくれているのです、彼はやや気持ちが楽になっていましたから、ここで少し紫苑さんの心に踏み込んだ言葉がけをしてみる事にしました。
「先程の話、そもそもその様によく出来た奥様との馴れ初めはどのような物だったのでしょうか。」
ぜひお聞きしたいですなぁと、ここ自宅、実は宇宙船から地球上への基地である一見寺に見えるという施設に、漸く迎え入れた客人である地球人の紫苑さんに、彼から地球人の恋バナである恋愛談を聞き出そうと、マルは穏やかで明るい微笑みを浮かべて対話の相手の顔を眺め試みるのでした。
果たして彼のこの試みは成功するや否や?。また、紫苑さんは問われるままに亡き妻との恋愛経験を彼に話して、彼女を亡くした悲哀の波を無事乗り切る事が出来るのか、否なのか?。この結果は先を御覧じろという所です。
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