渋川春海の 『天地明察』 は09年の作品ですから、東日本大震災、特に福
島原発事故による昨今の諸問題に直接かかわりをもつものではありません
が、私が魅かれる根底にはそれ=3・11以降の問題意識があります。
すこし飛びますが、中学生の時、クラブ活動で天体観測に一時夢中になった
ものでした。3人しかいないクラブ活動、それも同級生のみでしたが、1台しか
ない望遠鏡で交代で月面を見飽きることなく眺めました。
3人のうち一人は農業を継いだが行き詰まり、勤め人になりそのうち酒びたり
、結婚はしたがかなり早く亡くなりました。 もう一人は自分の代で90余年続い
た酒屋を閉じることになり、その苦境を店の二階で聞かされました。 しばらくし
て病から車いす生活になってしまったという便りをもらいました。
戦後の復興期、高度経済成長期、少年から青年、成人へと今日のような社会
をつくり担ってきた世代です。
そういう世代として、3・11を受けとめています。
日本政府が原発問題を経済問題・エネルギー問題の対象としてとらえている時、
ドイツ政府は倫理問題として、人の生き方にとって原発はいかなる価値を持つの
か、という問題の対象としています。こういう括り方は短絡的過ぎるかもしれません
が、視点は間違っていないと思います。
春海が天の動きを見定め、天意を把握し人智をあつめ天意を象にすることに全
精力を注ぐ姿勢は、現在の社会にかかわる姿勢として学ぶべきものに満ちている
というのがこの小説を読んでの感想です。