国立西洋美術館「カポディモンテ美術館展」を観てきた。
6月は心身ともに全く余裕の無い毎日だったが、ようやく一息。ということで、やっと感想を書けるのが嬉しい。
今回、ナポリから来日した作品数は素描や工芸品を含めて80点という割とこじんまりした展覧会で、そのぶん時間をかけてゆっくりと鑑賞できた。会場の展覧会構成は、
Ⅰイタリアのルネサンス・バロック美術
Ⅱ素描、
Ⅲナポリのバロック絵画
さすが、第Ⅰ章のルネサンス・バロック美術に見どころの多い名作が並ぶ。
会場入口を入ると彫像《パウルス3世(アレッサンドロ・ファルネーゼ)胸像》がお出迎え。カポディモンテ美術館がファルネーゼ家のコレクションが基になっているのを知らしめている。
ナポリでも古典絵画ギャラリー階のガラス扉を入ると正面にティツィアーノ《パウルス3世と孫たち》やパウルス3世の肖像画が出迎えてくれる。
ティツィアーノ《パウルス3世》 カポディモンテ美術館(ナポリ)
さて、絵画の方はなんとマンテーニャから始まり、隣はコレッジョという、思わずニンマリしてしまう展開だった。マンテーニャ《ルドヴィコ(?)・ゴンザーガの肖像》はルネサンスらしい横顔肖像で、描かれた少年から思慮深そうな感じをうけるのだが、これは画家の腕?
マンテーニャ《ルドヴィコ(?)・ゴンザーガの肖像》(1470年頃)
マンテーニャらしいと思うのは頬と口元の描写なのだよね。マンテーニャ描く人物像って画家に似てしまうような気がするのだ(汗)。本人がベッリーニ家との結婚記念に描いた《神殿奉献》での自画像も、義兄弟のジョヴァンニ・ベッリーニが描いたマンテーニャも、若いはずなのに頬と口元すなわち放物線が印象的なのだ。勝手なこと書いてごめんね(^^;;;>マンテーニャさま
次のコレッジョ《聖アントニウス》だが、初期のレオナルドからの影響を感じさせるフスマート的ぼかしと衣装襞の明暗表現が印象的だ。初期コレッジョがマンテーニュアから学んだということで並べたのかな? できたら《聖カテリナの神秘の結婚》の方を持ってきて欲しかった(^^;>主催者さま
その隣のルイーニ以降は次回(2)で書きたいが、この第Ⅰ章ではルネサンス~マニエリス~バロックと魅力的な作品に目が喜んでしまう。特にパルミジャニーノ《アンテア》の魅力には何度観ても参ってしまうし、ティツィアーノ《マグダラのマリア》も強力だ。
カポディモンテにはパウルス3世がティツィアーノの弱み(息子に聖職者禄を与えたいという親心)に付け込んで描かせた数々の肖像画や名作があるのだが、今回のティツィアーノが《マグダラノマリア》1枚というのはちょっと寂しい。
ティツィアーノ作品の並ぶ壁 カポディモンテ美術館(ナポリ)
ファルネーゼ・コレクションには地元パルマ派やボローニャ派作品が多いのが特徴的だ。先に触れたマンテーニャ~コレッジョに続くパルミジャニーノ~カラッチも実に豪勢だと思う。
ところで、今回、図録解説を読んで興味深かったのは、グイド・レーニ《アタランテとヒッポメネス》が1802年に購入されたことで、レーニはボローニャ派と言えるが、同時代にコレクションに入ったものではなかった。
2001年に初めてカポディモンテに行った時、《アタランテとヒッポメネス》の構図に目を惹かれ、私的にカラヴァッジョの影響も見えたし、思い出深い作品でもある。
グイド・レーニ《アタランテとヒッポメネス》(1622年頃)
第Ⅱ章はなかなかに魅力的な素描が並んでいた。こちらも次回以降で感想を書きたい。
ということで、今回の各章の中で私的に一番面白く観られたのは、実は第Ⅲ章のナポリのバロック絵画である。ナポリにバロックを持ち込んだのはカラヴァッジョであるし、その影響がどのように受け入れられ、変容していったか、コンパクトにまとめられた展示作品群からもよくわかるのだった。
ちなみに、カポディモンテ美術館にはこの種のナポリ・バロック作品が多すぎて、正直言うとうんざりするくらいあるのだよね(^^;;;。だから、今回の展覧会のようにピックアップして並べてくれた方が見やすくてわかりやすい。でも、フセペ・デ・リーベラ作品がもっとたくさん来てくれても良かったのに、と思ったのは欲張りだろうか? いや、それを言うならカラヴァッジョ《キリストの苔打ち》だよね(笑)
さて、ナポリのカラヴァッジェスキと言ったらもちろんカラッチョーロやルカ・ジョルダーノ作品が並ぶ。この章にアルテミシア・ジェンティレスキやマッティア・プレーティ作品も入っていて、地味になりがちなこの章を盛り上げていた。アルテミシア・ジェンティレスキ《ユディットとホロフェルネス》は強烈なインパクトがある名作だし、プレーティ作品も質が高く見応えがある。意外だったのが、オランダのカラヴァッジェスキであるマティアス・ストーメル作品も入っていたことで、確かにシチリアのメッシーナ美術館にもあったからナポリにも滞在したのだろうね。
で、今回、しみじみ良い作品だなぁと見入ってしまったのはフランチェスコ・グアリーノ《聖アガタ》とベルナルド・カヴァリーノ《歌手》だった。
ベルナルド・カヴァリーノ《歌手》
カヴァリーノ《歌手》は歌に没入する表情の豊かさがあり、絵の前で思わず微笑んでしまった。歌いながら無意識に髪先をいじる仕草がニクイ(笑)。
そう言えば同じように歌う表情が魅力的なにユトレヒト派カラヴァッジェスキのヘンドリック・テル・ブリュッヘン《歌う若い男》が森アーツセンター「ボストン美術館展」にも来ていた♪(okiさんチケットに感謝!)
脇道にそれるが、去年のシュテーデル美術館「CARAVAGGIO IN HOLLAND」展(参照:拙ブログ)ではカラヴァッジョの風俗画としての「音楽」主題を発展させたユトレヒト派作品を展示したもので、バーゼル美術館《歌う若い女》とボストン美術館《歌う若い男》とが対になって展示された。
テル・ブリュッヘン《歌う若い女》バーセル美術館 《歌う若い男》ボストン美術館
カポディモンテ美術館展に話を戻すが、今回の展覧会は2007年の国立西洋美術館「パルマ展」を補完する展覧会のような気がする。2008年にパルマで開催された「コレッジョ展」を観るため現地に行ったが、パルマにはファルネーゼ・コレクションが殆ど残っていないようだった。エリザベッタ・ファルネーゼを母に持つスペイン・ブルボン家のナポリ王でもあったカルロ7世(後スペイン王カルロス3世)にコレクションがごっそりと引き継がれたのが了解された展覧会でもあった。今回の展覧会にはその中の美術工芸品コレクションも出展されている。
ということで、感想が脈絡もなく突っ走ってしまったが、次回以降は展示作品を中心に書きたい(^^;;;
6月は心身ともに全く余裕の無い毎日だったが、ようやく一息。ということで、やっと感想を書けるのが嬉しい。
今回、ナポリから来日した作品数は素描や工芸品を含めて80点という割とこじんまりした展覧会で、そのぶん時間をかけてゆっくりと鑑賞できた。会場の展覧会構成は、
Ⅰイタリアのルネサンス・バロック美術
Ⅱ素描、
Ⅲナポリのバロック絵画
さすが、第Ⅰ章のルネサンス・バロック美術に見どころの多い名作が並ぶ。
会場入口を入ると彫像《パウルス3世(アレッサンドロ・ファルネーゼ)胸像》がお出迎え。カポディモンテ美術館がファルネーゼ家のコレクションが基になっているのを知らしめている。
ナポリでも古典絵画ギャラリー階のガラス扉を入ると正面にティツィアーノ《パウルス3世と孫たち》やパウルス3世の肖像画が出迎えてくれる。
ティツィアーノ《パウルス3世》 カポディモンテ美術館(ナポリ)
さて、絵画の方はなんとマンテーニャから始まり、隣はコレッジョという、思わずニンマリしてしまう展開だった。マンテーニャ《ルドヴィコ(?)・ゴンザーガの肖像》はルネサンスらしい横顔肖像で、描かれた少年から思慮深そうな感じをうけるのだが、これは画家の腕?
マンテーニャ《ルドヴィコ(?)・ゴンザーガの肖像》(1470年頃)
マンテーニャらしいと思うのは頬と口元の描写なのだよね。マンテーニャ描く人物像って画家に似てしまうような気がするのだ(汗)。本人がベッリーニ家との結婚記念に描いた《神殿奉献》での自画像も、義兄弟のジョヴァンニ・ベッリーニが描いたマンテーニャも、若いはずなのに頬と口元すなわち放物線が印象的なのだ。勝手なこと書いてごめんね(^^;;;>マンテーニャさま
次のコレッジョ《聖アントニウス》だが、初期のレオナルドからの影響を感じさせるフスマート的ぼかしと衣装襞の明暗表現が印象的だ。初期コレッジョがマンテーニュアから学んだということで並べたのかな? できたら《聖カテリナの神秘の結婚》の方を持ってきて欲しかった(^^;>主催者さま
その隣のルイーニ以降は次回(2)で書きたいが、この第Ⅰ章ではルネサンス~マニエリス~バロックと魅力的な作品に目が喜んでしまう。特にパルミジャニーノ《アンテア》の魅力には何度観ても参ってしまうし、ティツィアーノ《マグダラのマリア》も強力だ。
カポディモンテにはパウルス3世がティツィアーノの弱み(息子に聖職者禄を与えたいという親心)に付け込んで描かせた数々の肖像画や名作があるのだが、今回のティツィアーノが《マグダラノマリア》1枚というのはちょっと寂しい。
ティツィアーノ作品の並ぶ壁 カポディモンテ美術館(ナポリ)
ファルネーゼ・コレクションには地元パルマ派やボローニャ派作品が多いのが特徴的だ。先に触れたマンテーニャ~コレッジョに続くパルミジャニーノ~カラッチも実に豪勢だと思う。
ところで、今回、図録解説を読んで興味深かったのは、グイド・レーニ《アタランテとヒッポメネス》が1802年に購入されたことで、レーニはボローニャ派と言えるが、同時代にコレクションに入ったものではなかった。
2001年に初めてカポディモンテに行った時、《アタランテとヒッポメネス》の構図に目を惹かれ、私的にカラヴァッジョの影響も見えたし、思い出深い作品でもある。
グイド・レーニ《アタランテとヒッポメネス》(1622年頃)
第Ⅱ章はなかなかに魅力的な素描が並んでいた。こちらも次回以降で感想を書きたい。
ということで、今回の各章の中で私的に一番面白く観られたのは、実は第Ⅲ章のナポリのバロック絵画である。ナポリにバロックを持ち込んだのはカラヴァッジョであるし、その影響がどのように受け入れられ、変容していったか、コンパクトにまとめられた展示作品群からもよくわかるのだった。
ちなみに、カポディモンテ美術館にはこの種のナポリ・バロック作品が多すぎて、正直言うとうんざりするくらいあるのだよね(^^;;;。だから、今回の展覧会のようにピックアップして並べてくれた方が見やすくてわかりやすい。でも、フセペ・デ・リーベラ作品がもっとたくさん来てくれても良かったのに、と思ったのは欲張りだろうか? いや、それを言うならカラヴァッジョ《キリストの苔打ち》だよね(笑)
さて、ナポリのカラヴァッジェスキと言ったらもちろんカラッチョーロやルカ・ジョルダーノ作品が並ぶ。この章にアルテミシア・ジェンティレスキやマッティア・プレーティ作品も入っていて、地味になりがちなこの章を盛り上げていた。アルテミシア・ジェンティレスキ《ユディットとホロフェルネス》は強烈なインパクトがある名作だし、プレーティ作品も質が高く見応えがある。意外だったのが、オランダのカラヴァッジェスキであるマティアス・ストーメル作品も入っていたことで、確かにシチリアのメッシーナ美術館にもあったからナポリにも滞在したのだろうね。
で、今回、しみじみ良い作品だなぁと見入ってしまったのはフランチェスコ・グアリーノ《聖アガタ》とベルナルド・カヴァリーノ《歌手》だった。
ベルナルド・カヴァリーノ《歌手》
カヴァリーノ《歌手》は歌に没入する表情の豊かさがあり、絵の前で思わず微笑んでしまった。歌いながら無意識に髪先をいじる仕草がニクイ(笑)。
そう言えば同じように歌う表情が魅力的なにユトレヒト派カラヴァッジェスキのヘンドリック・テル・ブリュッヘン《歌う若い男》が森アーツセンター「ボストン美術館展」にも来ていた♪(okiさんチケットに感謝!)
脇道にそれるが、去年のシュテーデル美術館「CARAVAGGIO IN HOLLAND」展(参照:拙ブログ)ではカラヴァッジョの風俗画としての「音楽」主題を発展させたユトレヒト派作品を展示したもので、バーゼル美術館《歌う若い女》とボストン美術館《歌う若い男》とが対になって展示された。
テル・ブリュッヘン《歌う若い女》バーセル美術館 《歌う若い男》ボストン美術館
カポディモンテ美術館展に話を戻すが、今回の展覧会は2007年の国立西洋美術館「パルマ展」を補完する展覧会のような気がする。2008年にパルマで開催された「コレッジョ展」を観るため現地に行ったが、パルマにはファルネーゼ・コレクションが殆ど残っていないようだった。エリザベッタ・ファルネーゼを母に持つスペイン・ブルボン家のナポリ王でもあったカルロ7世(後スペイン王カルロス3世)にコレクションがごっそりと引き継がれたのが了解された展覧会でもあった。今回の展覧会にはその中の美術工芸品コレクションも出展されている。
ということで、感想が脈絡もなく突っ走ってしまったが、次回以降は展示作品を中心に書きたい(^^;;;