遅遅として、さっぱり進まない感想文もようやく「静物画」にたどり着いた(汗)。それにしても、日本で《果物籠をもつ少年》と《バッカス》が一室に並ぶ機会があろうとは思いもよらず、カラヴァッジョ偏愛としては本当に嬉しかった!! そのうえ、先にも書いたが、今回の照明の効果もこの「静物画」に集中していたように思う。更に、図録の表紙は《バッカス》と《果物籠をもつ少年》であり、企画者側もこの静物画2作品が並ぶ威力を多分に意識したに違いない。展覧会の見どころは、目玉作品《法悦のマグダラのマリア》より、この「静物画」にこそあると思う。
Ⅲ)静物画
・カラヴァッジョ《果物籠を持つ少年》
2001年「カラヴァッジョ展」でも来日していた作品だが、今回の方が照明効果によるものか、果物籠に盛られた果物の色鮮やかさや艶やかな質感が一層際立って見えた。多分、この色っぽい唇半開き少年がややマットに描かれているからこそ、正面の果物籠に盛られた果物の色艶やかな光沢描写が一瞬「写真か?」と見紛うばかりにリアルに観る者の眼に迫ってくるのだ。まさに魅惑的!!迫真の描写とでも言うべきカラヴァッジョの眼と筆力!!!
カラヴァッジョ《果物籠を持つ少年》(1597年頃)ボルゲーゼ美術館
カラヴァッジョがローマに出て来て間もなく、ダルピーノ工房にいた頃の作品であるが、既に「静物」に対する驚くべき観察眼と写実力を兼ね備えていたことがわかる。 ボルゲーゼ美術館所蔵であるのは、シピオーネ・ボルゲーゼ枢機卿(美術コレクター!)が叔父のパウルス5世を動かし、カヴァリエーレ・ダルピーノの元にあったこの作品を取り上げたからである。
ちなみに、イタリア絵画史上、独立した「静物画」の成立は、カラヴァッジョ《果物籠》とされている。
カラヴァッジョ《果物籠》(1597年頃)アンブロジアーナ絵画館
(静物画の起源や発展については、以前の拙ブログで宮下先生の講演会を基に書いたことがある。稚拙ながら一応ご参考まで)
蛇足ながら、ついでにロベルト・ロンギからも引用しておこう。
■■■
(カラヴァッジョが)決定的なのは、全く新しい分野、つまり、現代人にとって親しみのある「死せる自然/静物」という分野を彼が創りだしたということである。(中略)そこに注がれた人間の眼差し、そしてなによりも、その魅惑を生み出したその人間自身の眼差しを映し出しているのである。(中略)ジュスティニアーニ候の伝える画家本人の言葉が残されている。「自分にとっては、人間と同じように花の絵をうまく描くことも立派な仕事なのだとカラヴァッジョは言った」。
(ロベルト・ロンギ『芸術論叢Ⅰ』(中央公論美術出版)「カラヴァッジョとそのサークル」(P248)から引用)
■■■
ということで、《バッカス》は次回に続く…(^^ゞ