国立西洋美術館の常設展示室で新収蔵品クラーナハ《ホルフェルネスの首を持つユディット》を観た後、版画素描展示室に向かった。ゲストの山科さん&むろさんさんご推薦「ローマの景観-そのイメージとメディアの変遷」を観るためだ。
17~18世紀に英国の貴族子弟に流行したイタリアへのグランド・ツァーであるが、当時は記念写真やお土産用の絵葉書など無いから、名所旧跡の景観を描いた版画や絵画が盛んに流通し、特にピラネージ(Giovanni Battista Piranesi, 1720 – 1778)が描いた版画連作「ローマの景観」は評判を呼んだようだ。ヴェネツィアならカナレットやグァルディの‘Veduta’だと思うけど、しかし、ピラネージの場合は方向性も描き方もまるっきり違う。「牢獄」版画連作なども観たことがあるが、まさに綺想の画家と言うべきかもしれない。
で、このピラネージ「ローマの景観」はハッキリ言うとそのまんまのローマを描いたものではない。古代建築が残る景観をドラマチックに演出するため、各所から寄せ集め構成したり、細部を大いに盛ったり、俯瞰を取り入れたり。ローマをまるでエキゾチックで幻想的な都市空間であるかのように仕立て上げ、観る者を幻惑してくれるのだよ。「コロセウム」なんてまるでブリューゲル《バベルの塔》を想起してしまう。って、ブリューゲルもコロセウムを参考にした説もあるけど
ジョヴァンニ・ヴァッティスタ・ピラネージ《コロセウムの鳥観図》(1776年)「ローマの景観」より
このピラネージ「ローマの景観」のインパクトのあるイメージが、その後の新しいメディアである「写真」登場においても、伝搬引き継がれ、参照されていく、という展示ストーリーのようで、東京都写真美術館協力のもと、木村伊兵衛や白川義員などの写真家作品も並ぶなかなかに面白い展示となっていた。 ちなみに、立派な作品目録も作られていたので、企画者側の気合がわかるよね
特に私的に興味深かったのは白川の夕陽に紅く染まるコロセウム鳥瞰(空撮?)作品《ローマ》で、古代ローマ時代は血で染まったであろうコロセウムを想起させ、なおかつ、ピラネージの幻想性を孕みながらも、なぜか抽象化されたコロセウムであるように思えてならなかった。写真の面白さってまだまだわかない美術ど素人の素朴な感想ですみませぬ