昨年末に書けなかった「遅ればせサクッと感想」の続きをぽつぽつと書いていこうと思う。ということで、まずは東京国立博物館「国宝 東京国立博物館のすべて」展のサクッと感想から。
https://www.tnm.jp/150th/project/202210/exhibition_tokubetsuten_tnm.html
私が観たのは第1期で、長谷川等伯《松林図屏風》に久しぶりに会いたかったからだ。東京に住んでいた頃は1月に観ることができたが、仙台に戻ってからはご無沙汰気味になっていた。
長谷川等伯《松林図屏風》(安土桃山時代 16c)東京国立博物館
第1期の展示はオープニングがこの《松林図屏風》であり、人混みの中での鑑賞ではあったが、静寂な松林の間から霧靄が確かに流れてくるのを感じることができた。この松林の霧の中に自分が溶け込む刹那が味わいたくて会いたくなるのだ。
《松林図屏風》の隣に展示されていたのが狩野長信《花下遊楽図屏風》である。安土桃山の絢爛たる花の宴はもしかして当時のパラダイスを描いたのではないか? と、ふと思ったのは 左隻であった。
狩野長信《花下遊楽図屏風》 左隻(安土桃山時代 16c)東京国立博物館
《花下遊楽図屏風》 左隻 一部拡大
なぜならば、左隻を眺めながら土田麦僊《湯女》を想起してしまったのだ。かつて(2006年)観た、東京国立近代美術館「モダン・パラダイス展」の中で一番パラダイス感が強く魅了された作品である。日本の(大正時代の)桃源郷かもしれない、と思った記憶がある。
http://archive.momat.go.jp/Honkan/Modern/index.html#detail
土田麦僊 《湯女》(1918年)東京国立近代美術館
《花下遊楽図屏風》が安土桃山のパラダイスとしたら、隣に並んだ久隅守景《納涼図》は江戸初期の庶民のパラダイスなのかもしれない。
久隅守景《納涼図》(江戸時代 17c)東京国立博物館
「国宝展」の宣伝番組の解説では、戦国時代の理想的楽園図かもしれないとの話が出ていたが、戦国のの安土桃山から、戦乱を経た江戸時代初期のパラダイスが、つつましやかな家族の《納涼図》であるのが了解できる。多分、近代的な視点と技量を持った久隅守景だからこそ描けた新時代のパラダイス感だったのだろう。
私的にはこのオープニングの屏風図並びだけで満足感を味わってしまい、あとはオマケ的に楽しんだのだった。
ということで、前半は「国宝」だらけ、後半は「東京国立博物館のすべて」で、最後のお見送りが《見返り美人》というのは気が利いていたかもね。