パドヴァの聖アントニオ大修道院の隣にあるスクオーラ・デル・サント(スコレッタ)のメインホール壁画装飾に、若きティツィアーノも制作参加してる。ティツィアーノは『パドヴァの聖アントニオの奇跡』シリーズの《新生児の奇跡》《癒した足の奇跡》《嫉妬深い夫の奇跡》の3つのエピソードを託された。1511年4月から12月にかけて描いた3枚の大きなフレスコ画は、若きティツィアーノの才能を今も伝える。
今回展示されていたのはティツィアーノによる下絵素描(案)である。
ティツィアーノ《新生児の奇跡》素描
下↓はスクオーラ・デル・サントのフレスコ画である。(ボケ写真すみません)
ティツィアーノ《新生児の奇跡》(1511年)スクオーラ・デル・サント
下↓は《嫉妬深い夫の奇跡》の下絵案素描。実際には採用されず、妻は抵抗するポーズに変更されている。
ティツィアーノ《嫉妬深い夫の奇跡》の下絵案素描
下↓右が《嫉妬深い夫の奇跡》のフレスコ画。
ティツィアーノ《癒した足の奇跡》と《嫉妬深い夫の奇跡》(1511年)スクオーラ・デル・サント
2013年パドヴァを訪れた時にこのフレスコ画も観たのだが、フォンダコ・デイ・テデスキのフレスコ画のボロボロの痛みとは違い、幸運にも当時の色彩を残したままであり、瑞々しい若きティツィアーノの才能がうかがえる貴重なフレスコ画だと思った。
多分、フォンダコ・デイ・テデスキのフレスコ画の出来の良さがこのパドヴァの仕事にも繋がったとしたら、まさしく1508年は輝かしいキャリアの始まりだったと言えるのかもしれない。
同じく1511年にティツィアーノが原画を描いたと言われる木版画《キリストの勝利》シリーズも展示され、興味深く観てしまった。その中から2点ほど...。
ティツィアーノ原画《キリストの勝利》木版画(1511年以降)フランス国立図書館
やはりミケランジェロの影響を見てしまうが、私的になにやらマンテーニャやデューラーの影響もあるような気がした。ヴァザーリもこの木版画に言及していて、デル・ピオンボの発言を引用しながら、トスカーナ優位を暗に言ってる感が面白い。
で、実は展示されたティツィアーノの素描で特に目を惹かれた作品がある。
ティツィアーノ《潟の岸辺で読書をする聖ヒエロニムス》(紙に茶インクのペン)(1507年頃)ウフィッツィ美術館
ハッチングの細やかさが立体的な質感を上手く表現しており、遠景のヴェネツィア風景も相まって、若きティツィアーノの力量が既に現れているような気がした。なんとなくレンブラントのエッチングに通じるものさえ感じたのだ。
ちなみに、今回の展覧会で初めてティツィアーノの素描を観たのだが、なかなかに興味深く観ることができた。ウフィッツィ美術館が講演動画「Il disegno secondo Tiziano」を作っていたのでご参考まで...。