碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

全国の「広報番組」を審査して

2014年06月16日 | テレビ・ラジオ・メディア

月刊「広報」6月号に、平成26年の「全国広報コンクール」に関する特集が掲載されました。

今回も嶋田親一先生と共に、広報番組や広報ビデオなどを対象とした「映像部門」の審査員を務めさせていただいています。

総評と選評を寄稿したので、転載しておきます。



平成26年全国広報コンクール 映像部門

<総評>


広報映像は「発信力」と「共有」の時代

広報映像の現在を考える時、キーワードのひとつが「発信力」だ。従来型のテレビ番組や広報ビデオはもちろん、ネットの活用も一般的になってきた。

これは市民に届ける経路が増えただけでなく、発信する内容や見せ方もメディアの特性によって使い分けていく必要があるということだ。単に放送と同じものをネットに上げる段階から、WEBコンテンツとして独自の価値を求められる段階に入ったのである。その意味で今回の応募作品には、受賞の有無に関わらず、いくつもの意欲な取り組みがあったことを評価したい。

次のキーワードは「共有」である。行政からの発信によって共有するのは「情報」だけではない。地域との、市民との「気持ち」の共有が、広報映像の重要なポイントとなっている。同じ場所で、一緒に生きる者として、個々の市民が抱えている様々な思いを汲み取りながら発信していくことだ。

受賞作はもちろんだが、たとえば長年高いレベルで制作を続けている愛知県日進市の広報番組なども、それによって市民が“暮らしの伴走者”としての行政の存在を感じることができる。

今回、審査会での第一声は「全体のレベルが年々アップしていますね」だった。各自治体(送り手)が、限られた貴重な予算の中で、それぞれに有効な広報を目指そうとする意識と努力は、必ず市民(受け取り手)にも伝わっているはずだ。




<選評>

特選 岡山県新見市 *総務大臣賞
「イングリッシュパラダイス シーズン2」

広報番組の内容は、ここ何年で飛躍的に多様化した。しかし、外国人が司会やレポートを全編英語で行う趣向はこれまでなかった。いわば新製品だ。まず、その柔軟な発想と企画力に拍手を送りたい。視聴者は、この番組を通じて地域に関する情報を得られるだけでなく、外国語指導助手として小・中学校で教えている「先生」たちを知り、家に居ながら生きた英語の勉強ができる。広報番組が地域のグローバル化に貢献している成功例だ。

1席 長野県伊那市 *読売新聞社賞
「ローメンを世界へ!伊那中学校の挑戦!」

地元の名物・ローメンに関する、伊那中学校のギネス挑戦を紹介している。中学生の発案から始まった取り組みが、地域全体を巻き込んでいく様子が秀逸だ。広報番組がこうした活動と併走することで、地域に新たなつながりも生まれていく。地元ケーブルテレビならではの小まめな取材が蓄積されて、見ごたえのある1本の密着ドキュメンタリーになっている。地元への関心を呼び起こす意義もあった。

2席 栃木県矢板市 
「矢板えほんるっく ~子育て環境日本一を目指して!~」

広報映像をYou Tubeなどを通じてネット配信する取り組みが増えている。その場合も、大事なのはコンテンツとしての内容、質である。地域に暮らす「人」と「活動」にスポットを当てようというコンセプトだけでなく、ボランティアに取り組む1人の市民に集中して構成している点も適切だ。さらに、見やすい編集やテロップなど、細部にまで気を配っていることも評価したい。  

3席 広島県東広島市 
「ひとくふう発見伝 元就。東広島外伝」

IターンやUターンで、農業、絵画教室、洋菓子店などに挑戦している人たちを、漫然と追っているわけではない。その取材は実に丁寧で、何より取材対象への敬意がある。全体として、移住先としての地元の魅力をアピールすることに成功している。こうした明確な目的を持ちながら、見る側に押しつけがましさを感じさせないことが好ましい。また、元就公とふくろうのキャラクターを投入することで、親しみやすさを増している。

入選 東京都羽村市 
「面打 新井達矢」

面打師に密着し、面が完成するまでの製作過程を追った。木に始まり木で終わるという構成が効いている。ナレーションもBGMも使用しないことで、落ち着いて見ることができる。全体としてレベルの高い作品であることは間違いない。その一方で、登場した面打師を、いわばこの世界のホープとして描くことについては審査会で議論があり、「広報とは何か」という根本的なテーマにまで及んだことを付記しておきたい。

入選 岐阜県大垣市 
「潜入!学校給食センター」

給食というテーマは、これまでも多くの広報番組が扱ってきた。しかし、ほぼパターン化した見せ方に終始しており、入選する機会はあまりなかった。この作品では、「親子調理体験」という秀逸な取り組みを見ることができる。実際に自分の手で作ることで学ぶことは多いはずだ。やや説明部分が長いことを除けば、14分の映像の中に、「食」への関心を呼び起こす要素がいくつも盛り込まれている。

入選 京都府京丹波町 
「勝利に向かって 一つになれた夏~須知高校野球部~」

昨年、このコンクールで特選を受けた京丹波市。今回の須知高校野球部を追った密着ドキュメンタリーもまた自主制作の秀作である。甲子園予選における、須知高のミーティングを重視したユニークな戦いぶりが興味深い。またチーム全体を見せるだけでなく、レギュラーから外れた選手など個々人の内なるドラマにもスポットを当てており、見ていて引き込まれた。

入選 長崎県佐々町  
「記憶は未来へ 旅をする ~炭鉱・国鉄松浦線とともに~」

町の記憶を記録し、次代へと繋げていくことは、広報映像の役割の一つでもある。町政70周年を記念したこの取り組みは、見事にそれを果たしている。特に、全国から映像を集めるという発想がいい。また、過去の映像を並べるだけでなく、松浦線の当時を知る元・運転士や機関車の写真撮った人の証言を挿入するなど、多角的な工夫もされている。「記憶は未来へ旅をする」というタイトルが全体を象徴している。

以上です。

受賞自治体の皆さん、おめでとうございます!