出版される前から注目していた、『現代ジャーナリズム事典』(三省堂)がついに刊行された。監修は武田徹(ジャーナリスト・恵泉女学園大学教授)、藤田真文(法政大学教授)、山田健太(専修大学教授)の3氏だ。
事典を”通読”する
荒俣宏さんの新著『喰らう読書術』(ワニブックスPLUS新書)の中に、興味深い提言があった。それは、今こそ「教養主義」的な読書が必要な時代ではないかというのだ。全集や事典には「体系の本質」があると説いている。
「なるほど」と思い、厚さ3センチ、378ページ、約700項目が記載された事典である本書を、“引く”とか、“拾い読み”とかではなく、頭から“通読”してみた。
あらためて、優れた事典は“引く”だけでの書物ではなく、“読みもの”でもあることを再認識した。項目の並びは「あいうえお順」で、思想、倫理、理論、表現、権利、事件、報道など多岐にわたるが、読み進めるうち、「ジャーリズムの過去・現在・未来」の全体像が徐々に浮かび上がってきたからだ。
新聞におけるニュースバリューは、記事が掲載された紙面と文章の量、そして論調で確認できる。ならば事典ではどうか。割かれた字数が重要度を示すと考えていいだろう。
ジャーナリズムの「論点」
本書の場合、長い文章で構成された項目は以下の通りだった。「戦時下の情報統制」「メディアと権力」「言論・出版・表現の自由」「個人情報」「報道被害」「報道倫理」「メディアリテラシー」「ジャーナリズム教育」などだ。これらを見ただけで、監修者、編集委員、そして執筆者たちの姿勢や問題意識が伝わってくる。
次に独特の整理法にも好感をもった。たとえば、「秘密保護法制」という項目がある。ここでは明治憲法下における軍事機密の扱いから、最近の特定秘密保護法まで言及している。それによって、特定秘密保護法をめぐる問題を歴史的視点に立って考察することが可能になる。
また「自主規制制度」についても、わざわざ出版、新聞、放送の3つ分けて述べている。こうした姿勢が事典としての精度を上げているのだ。
記述にも多くの配慮が為されている。例を挙げれば、「報道倫理」に関する要点を解説した後、「倫理違反を違法行為として罰してよいのか、そもそも倫理とは何なのか」という大きな課題を示すことを忘れていない。
さらに「発掘!あるある大事典2事件」「テレビ離れ」「図書館の自由」など、この事典ならではの項目設定にも注目したい。
中でも驚いたのは「電通」が入っていたことだ。広告業界を牽引してきた一方で、寡占化やガラパゴス化など「日本の社会的コミュニケーションの閉鎖性を促してきたのではないか」と厳しい指摘も行っている。
もちろん、「ソーシャルメディア」などの新語も収容されていた。市民の多くが発信者になることの意義だけでなく、「誹謗中傷やデマが拡散しているなどの問題点も指摘されている」との記述も重要だ。
事典を”日常使い”する
アナウンサー志望の女子学生が鞄の中に「アクセント辞典」を忍ばせ、“ゼミ飲み”の席でもチェックしている姿を見かけたことがある。その意気や良し。
ならばジャーナリスト志望の学生諸君は、すべからく本書を常時携帯し、随時ひも解くべきだろう。そのための並製(ソフトカバー)仕様でもある。