日経MJ(流通新聞)に連載しているコラム「CM裏表」。
今回は、日本コカ・コーラ「ジョージア」の「海の家従業員」篇
をめぐって書きました。
日本コカ・コーラ「ジョージア」
ちゃっかり娘に勝てない夏の海
山田孝之さんはカメレオン俳優だ。ある時は脱力系ヒーロー・勇者ヨシヒコ、またある時はコワモテの闇金・ウシジマくんと化す。そんな山田さんが海の家で焼きそばを売っている。地道な商売だ。
しかし、誰にも魔がさす時はある。うっかりミスだ。買いに来たのは笑顔と水着姿が魅力的な佐野ひなこちゃん。ふいに身をかがめ、山田さんを見上げて聞く。「暑くないですか?」
その瞬間、「いい娘だ」と山田さんは思った。冷えた缶コーヒーを「オマケであげるよ」と鷹揚(おうよう)なところを見せる。目は胸元にくぎづけだ。
突然、カレシが現れる。これがまた絵に描いたようなチャラ男。「お前にじゃねえよ!」と声には出さず憤る。怒りと自嘲を押し隠した笑顔が絶品だ。
この夏も、うっかり男とちゃっかり娘の対決が各地で展開されているだろう。でも、オトナの男は勝ってはいけない。山田さんはそう教えている。
(日経MJ 2014.08.04)

北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。
今回は、NHK朝ドラ「花子とアン」について書きました。
「花子とアン」
ヒロイン像守り通俗性も
ヒロイン像守り通俗性も
NHK朝の連続テレビ小説「花子とアン」が、後半戦に入ってがぜん面白くなってきた。かつてこの欄で「あまちゃん」を評した際、「母娘3代のトリプルヒロインが効いている」と書いた。それにならえば「花子とアン」は花子(吉高由里子)と蓮子(仲間由紀恵)によるダブルヒロインのドラマである。
放送開始前、二つの懸念があった。一つは実在の人物である村岡花子の人生がどれだけ視聴者の興味を引くかということだ。「赤毛のアン」の翻訳者というだけでは題材として弱いのではないかと思われた。もう一つの心配は主演を務める吉高由里子という女優がもつ奔放なイメージと、生真面目そうな児童文学者の実像が重なりにくかったことだ。
しかし始まってみれば、演技に定評のある吉高が、自分の道を切り開こうと努力する明治生まれのヒロインを、現代的な味付けで魅力的に作り上げてきた。
また、それ以上に弾みをつけたのは、花子の親友・蓮子が引き起こした駆け落ち騒動だろう。蓮子のモデルは歌人・柳原白蓮。華族である伯爵家に生まれた彼女の人生は波瀾万丈だ。最初の結婚は15歳の時だが、20歳で離婚している。5年後に九州の炭鉱王・伊藤伝右衛門と再婚。26歳違いの夫婦だった。
そして10年後、7歳下の社会運動家・宮崎龍介(ドラマでは宮本龍一)と駆け落ちする、いわゆる「白蓮事件」を起こす。ちなみに宮崎龍介は孫文の支援で知られる宮崎滔天の長男だ。境遇が全く異なる2人の不倫逃避行は大正期を代表する一大スキャンダルだった。
ドラマは「白蓮事件」を正面から描き、凄艶な恋する女と化した蓮子を仲間が生き生きと演じている。駆け落ちシーンでは語り手の美輪明宏が熱唱する「愛の讃歌」が流れ、その翌朝、一夜を共にした部屋で仲間は鮮やかな赤の長襦袢姿まで披露した。
さらに吉田鋼太郎が演じる炭鉱王(ドラマでは嘉納伝助)に貫禄と存在感がある。離縁状を新聞に公開され、大恥をかいたにも関わらず、最後は蓮子を許す度量を見せる。「嘉納伝助が一度は惚れて嫁にした女やき。末代まで一言の弁明も無用!」は、このドラマにおける名セリフの一つとなった。
社会的制約の多かった時代に女性が自立することの困難さと、それを必死で乗り越えようとする主人公たち。伝統的朝ドラの爽やかなヒロイン像を守りつつ、不倫という通俗性をも堂々と取り込む、脚本と演出のチャレンジが功を奏している。
(北海道新聞 2014.08.04)