碓井広義ブログ

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週刊現代で「本当にうまい役者」ベスト100人を選考&解説

2015年01月06日 | メディアでのコメント・論評



発売中の「週刊現代」最新号に、特集「いま日本で本当にうまい役者ベスト100人を決める」が掲載されました。

この記事で100人の選考に参加し、解説しています。


いま日本で
「本当にうまい役者」
ベスト100人を決める
〈男優編〉ベスト50

年の大きな楽しみのひとつが、新しく始まるドラマの品定めという読者はきっと多いことだろう。1月最初の週が明け、いよいよ本格的に「2015年の冬ドラマ」が始動した。

ドラマ・映画界では、昨年は大物俳優の訃報も相次ぎ、まさに大きな世代交代の時期に突入している。15年を迎えた「いま」、本当にうまい役者は誰なのか。これからの日本の映画界、ドラマ界を担うのは誰なのか。

本誌はこの問いに答えるべく、上智大学教授の碓井広義氏、映画プロデューサーの日下部五朗氏、評論家の中森明夫氏、そして放送作家の山田美保子氏の4人に意見を聞いた。そのうえで、受賞歴や出演作の視聴率、話題性などを加味し、男優・女優あわせて「現役トップ100人」を選抜、ランキングを集計した。

現在、国内で活動するプロの俳優はおよそ1万人。今回選ばれたのは、そのうちわずか1%の「トップ・オブ・ザ・トップ」であり、これだけでも日本を代表する「うまい役者」であることは間違いない。

では一体、その中でもさらに頂点に立つのは、いったい誰なのか。さっそく、男優から見ていこう。



ここ数年のドラマの中で圧倒的な人気を誇り、社会現象にまでなった『半沢直樹』。かねてから当代きっての演技派として知られていた堺雅人(41歳)と香川照之(49歳)の2人が、同作によって「国民的俳優」にまで大きくジャンプアップを遂げたことに、異論は少ないだろう。

堺演じる主人公・半沢、そして香川演じる仇敵・大和田が至近距離で怒鳴り合うあの凄まじいシーンは、いまも人々の脳裏に強烈に焼き付いている。

「ぜひ『半沢』の続編が見てみたいですね。堺さんは『内に秘めた闘志』を表現するのがうまい」(中森氏)

「2人とも30代半ばで開花した役者といえますが、堺さんはセリフ回しに安定感があり、役作りも幅広い。香川さんは決してスマートな二枚目ではないけれど、例えば西川美和監督の映画『ゆれる』でも、複雑な役柄を演じ切っていた。お父さんの市川猿翁譲りの頭の良さで、演じながら自分の演技をどんどん修正できるんだと思います」(日下部氏)

堺は来年16年度のNHK大河ドラマ『真田丸(さなだまる)』で、主人公・真田幸村を演じることが決定している。一方香川は、1月18日からTBS系ドラマ『流星ワゴン』で西島秀俊(43歳)とともにダブル主演の予定。今年以降も、堺・香川の二人が日本のドラマ界を引っ張ってゆくことは確実だ。

また今回は、昨年のNHK大河ドラマ『軍師官兵衛』で大役を務めあげた岡田准一(34歳)が、上位にランクインした。中森氏はこう語る。

「ジャニーズの中では、間違いなく彼がトップでしょう。大河はここ最近厳しい状況が続いていますが、プレッシャーの中で1年間大きく視聴率を落とさなかったのは偉い。彼は映画『木更津キャッツアイ』で宮藤官九郎さんと出会ったことが大きかった。宮藤さんと出会った役者は、演技の幅が広がるんです」

岡田は一昨年の映画『永遠の0』で、戦時下の日本軍エースパイロットという悲壮な主人公を演じ、役者として本格的に注目されるようになった。「この数年、ぐっと細やかに感情表現ができる役者になってきた」(中森氏)、「これから40代、50代を迎えるのが楽しみ」(山田氏)と、第一線で走りつつも、さらなる成長を続けていることが高評価につながっている。

堺や香川、岡田がいままさに俳優としての「旬」というべき期間にさしかかっている一方で、今回のランキングではもちろん、いついかなる役柄でも的確に仕事をし、存在感を示す名優たちもトップを窺(うかが)う。

「役所広司さん(58歳)、渡辺謙さん(55歳)、三浦友和さん(62歳)、西田敏行さん(67歳)といったベテラン勢は、やっぱり安定感があるし、様々な役柄を幅広く演じ切るオールマイティさを身に付けていますよね。佐藤浩市さん(54歳)も、父親の三國連太郎さんのような落ち着きが少しずつ出てきている。彼らとやると、制作する側も安心できるんですよ」(日下部氏)

そうしたベテラン勢の中でも、碓井氏が「最近になって見直した」と感心したのが、中井貴一(53歳)だ。

「中井さんといえば、生真面目なイメージが固まっていた。それが『最後から二番目の恋』(フジテレビ)シリーズや、NHKの『サラメシ』のナレーションを通して、いい意味で『軽み』が持ち味に加わったと思います。父親の佐田啓二さんから受け継いだ看板に、新しい良さを加味できている。50代にして、ひと皮もふた皮も剥けるのはすごい」


俳優に限らず、人生には時に「壁」にぶつかることがある。50代、60代、70代と年齢を重ねてなお活躍する人は、そうした壁にぶつかるたび、たとえいくつであっても成長を遂げ、次のステージへ登ってゆく。ただ、彼らのようなトップ男優の場合、最大の障害は「過去の自分」であることが多いのが厄介である。

ほかに高評価を得た俳優に共通する特徴は、この「過去の自分」を克服した、または克服しつつあるということだろう。

「ずっと『天才子役』『美少年』と言われ続けていた神(かみ)木(き)隆之介さん(21歳)は、映画『桐島、部活やめるってよ』でオタクの役を演じたことをきっかけに脱皮した。いまでは悪役も十分にこなせるようになっている」(中森氏)

「山田孝之さん(31歳)は、当初のイメージは『暗くて無口』という感じで、どうなるんだろうと思っていたんですが、最近は缶コーヒーのCMで吹っ切れたように『働くお兄さん』を演じているのが、本当にうまくて驚きました。最も見直した俳優の一人です。竹之内豊さん(43歳)も、ここ2、3年でものすごくうまくなった。三枚目や、少し浮世離れした役柄を積極的に引き受けていて、独特の『竹之内ワールド』ができつつある。山田さん、竹之内さんが出ている作品は、必ず見てみたくなりますね」(山田氏)

こうして苦闘の末に這い上がってきた実力派がいる一方、ランキング上位争いには多くの「個性派」たちまで食い込み、まさに混戦状態だ。

「『陰影のある男』をやらせたらピカイチなのが浅野忠信さん(41歳)。大森南朋(なお)さん(42歳)も『何を考えているか分からない男』を演じたら右に出る者はいない。藤原竜也さん(32歳)や、それから阿部サダヲさん(44歳)なども『狂気』を演じた時にひときわ光る物がある役者です」(碓井氏)

「すでに浅野さんは、もはやうまい、下手という次元を超えて『ブランド』に到達したのではないでしょうか。昨年の映画『私の男』で演じた、二階堂ふみ演じる娘と近親相姦する父親の役は圧巻。中年にさしかかって、『いぶし銀なのに凶暴』という新たな魅力を得た」(中森氏)

しかし、こうした並み居る大物、そして曲者を抑えて総合トップに躍り出たのは、NHKの朝ドラ『マッサン』で「鴨居の大将」を演じ、圧倒的な存在感を見せつけている堤真一(50歳)だった。

「彼は役者としては遅咲きだったけれど、コメディに人情もの、アクション、シリアスと幅広い役柄をこなせる。しかも、懐が深い」(日下部氏)

『フライ、ダディ、フライ』や『ALWAYS 三丁目の夕日』(ともに05年)、『クライマーズ・ハイ』『容疑者Xの献身』(ともに08年)などで数々の映画賞を総なめにしてきた堤。近年では、器が大きくたくましい「日本の男」というイメージが完全に定着した。

大らかで、てらわず、気取らず――そういう「日本人みんなを勇気づける」役柄を演じられる役者という意味では、数多いる男優たちの中でも、いまや彼は稀有な存在といえるだろう。

「実は千葉真一主宰のJAC(ジャパン・アクション・クラブ)出身で身体能力も高い。今後のさらなるステップアップのためにも、本格的なアクションに改めて挑戦する姿を見たいですね」(碓井氏)

また今回、多くの二枚目俳優たちを抜き去り、見事トップ10入りした個性派若手俳優もいた。『軍師官兵衛』で黒田家の筆頭家老・栗山善助を演じた、濱田岳(がく)(26歳)である。

「画面のどこにいても目が行く役者さん。悪人役も面白い人の役もできますし、演出家は、彼のような役者なら当然使いたくなりますよ」(山田氏)

「芝居は一人でやるものではないですから、彼のような役者が必要なんです。彼にしかできない役がある」(中森氏)

濱田はしばしば「若い頃の火野正平に似ている」と言われることがあるという。ドラマ『必殺仕置人』シリーズの正八のように、火野が’70年代から’80年代にかけて演じたコメディ・リリーフ的役柄を、若き濱田が受け継いだという事実は、まさに「時代はまわる」ことを感じさせてくれる。

大河ドラマ『花燃ゆ』は4日に第1話が放映され、民放各局でも追いかけるように連ドラの放映が始まった。

中でも今期の注目株は、フジテレビ系『デート』で杏と共演している長谷川博己(ひろき)(37歳)だ。

「長谷川さんはドラマ『鈴木先生』での主演も評判でしたが、主役はもちろん、共演相手の女優を立て、輝かせるような演技をする時がとてもいいと思います。鈴木京香と共演したドラマ『セカンドバージン』でもそうでした」(碓井氏)


「すごく男前というわけでもないんだけれど、不思議な魅力がある。堺雅人さんのように、『どこまでが本心なのか分からない』タイプで、見る者を引き込む芝居ができる」(中森氏)

この国には、まだまだ実力と意欲を兼ね備えた男優たちが数多くいて、いまも日々研鑽を積んでいる。もしかすると、彼らの中から10年後、20年後の「健さん」が現れるのかもしれない。

(週刊現代 2014.01.17/24号)





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