先週から、「週刊新潮」の書評欄が変わりました。
いわばリニューアルです。
全体として、<署名入り>の書評が並ぶことになったのです。
大森望さん、豊崎由美さん、香川二三郎さん、東えりかさんなど錚々たる方々と共に、私も書き手の一人として参加させていただくことになりました。
私の担当は「文庫」と「ノンフィクション」で、随時掲載ということになります。
短い書評である「十行本棚」も、これまで通り、週に何冊か寄稿していきます。
というわけで、今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
『大脱走~英雄〈ビッグX〉の生涯』
サイモン・ピアソン:著、吉井智津:訳
小学館文庫
映画『大脱走』が公開されたのは1963年。東京五輪の前年だった。スティーブ・マックイーン、チャールズ・ブロンソン、ジェームス・コバーンといった面々がナチスの捕虜収容所から集団脱走を図る物語だ。
この映画は実話に基づいている。昨年8月に亡くなったリチャード・アッテンボローが演じる脱走計画のリーダー<ビッグX>にも実在のモデルがいた。それが英国空軍のロジャー・ブッシェル少佐だ。入隊前は若き法廷弁護士だった。
本書は本邦初訳となる長編ノンフィクション。ロジャーの遺族が保存していた本人の手紙、各種公文書、そして生存者たちの証言などによって、恋と戦争に生きた34年の生涯と大脱走の全貌が明らかになる。
『下品こそ、この世の花~映画・堕落論』
鈴木則文
筑摩書房
著者は菅原文太のヒット作『トラック野郎』シリーズなどで知られる映画監督だ。昨年5月に亡くなったが、このエッセイ集には熱い娯楽映画愛が遺されている。「この世は義理と人情」と言い切り、「連帯」を偽善用語として拒否する。畏友・上村一夫の装絵が美しい。
『書きたいのに書けない人のための文章教室』
清水良典
講談社
文芸評論家で大学教授の著者が伝授する文章術。出来事ではなく体験を描く。立派な意見も不要だ。文章の個性とは? アドバイスは具体的で丁寧。何より上から目線でないことが嬉しい。書くことによって初めて生まれる「自己」もある。文章は心の発掘作業なのだ。
『面白くて眠れなくなる社会学』
橋爪大三郎
PHP研究所
社会学は社会をまるごと考察する学問だ。大勢の人たちの共通点と法則性を探るが、観察対象の中には自分もいる。戦争、憲法、資本主義、家族、正義、宗教、そして死。学術用語を排し、話し言葉で社会を解読していく本書は、ものの見方を変えてしまうかもしれない。
(週刊新潮 2015.01.15号)