碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

書評本 『大脱走~英雄〈ビッグX〉の生涯』ほか

2015年01月18日 | 書評した本たち



先週から、「週刊新潮」の書評欄が変わりました。

いわばリニューアルです。

全体として、<署名入り>の書評が並ぶことになったのです。

大森望さん、豊崎由美さん、香川二三郎さん、東えりかさんなど錚々たる方々と共に、私も書き手の一人として参加させていただくことになりました。

私の担当は「文庫」と「ノンフィクション」で、随時掲載ということになります。

短い書評である「十行本棚」も、これまで通り、週に何冊か寄稿していきます。

というわけで、今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。



『大脱走~英雄〈ビッグX〉の生涯』
サイモン・ピアソン:著、吉井智津:訳 
小学館文庫

映画『大脱走』が公開されたのは1963年。東京五輪の前年だった。スティーブ・マックイーン、チャールズ・ブロンソン、ジェームス・コバーンといった面々がナチスの捕虜収容所から集団脱走を図る物語だ。

この映画は実話に基づいている。昨年8月に亡くなったリチャード・アッテンボローが演じる脱走計画のリーダー<ビッグX>にも実在のモデルがいた。それが英国空軍のロジャー・ブッシェル少佐だ。入隊前は若き法廷弁護士だった。

本書は本邦初訳となる長編ノンフィクション。ロジャーの遺族が保存していた本人の手紙、各種公文書、そして生存者たちの証言などによって、恋と戦争に生きた34年の生涯と大脱走の全貌が明らかになる。


『下品こそ、この世の花~映画・堕落論』
鈴木則文
筑摩書房

著者は菅原文太のヒット作『トラック野郎』シリーズなどで知られる映画監督だ。昨年5月に亡くなったが、このエッセイ集には熱い娯楽映画愛が遺されている。「この世は義理と人情」と言い切り、「連帯」を偽善用語として拒否する。畏友・上村一夫の装絵が美しい。


『書きたいのに書けない人のための文章教室』
清水良典
講談社

文芸評論家で大学教授の著者が伝授する文章術。出来事ではなく体験を描く。立派な意見も不要だ。文章の個性とは? アドバイスは具体的で丁寧。何より上から目線でないことが嬉しい。書くことによって初めて生まれる「自己」もある。文章は心の発掘作業なのだ。


『面白くて眠れなくなる社会学』
橋爪大三郎
PHP研究所

社会学は社会をまるごと考察する学問だ。大勢の人たちの共通点と法則性を探るが、観察対象の中には自分もいる。戦争、憲法、資本主義、家族、正義、宗教、そして死。学術用語を排し、話し言葉で社会を解読していく本書は、ものの見方を変えてしまうかもしれない。

(週刊新潮 2015.01.15号)