碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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4~6月期ドラマの総括

2015年07月03日 | 「北海道新聞」連載の放送時評


北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

6月の掲載分をアップするのを忘れていました。

4~6月期の連続ドラマの総括です。


今期ドラマを総括
主演俳優 それぞれの挑戦

今期(4~6月)の連続ドラマも終盤に入った。誰もが納得の大ヒットはないが、何本かの意欲作が目につく。まず、木村拓哉主演『アイムホーム』(テレビ朝日―HTB)である。事故で記憶を失った男(木村)が、かつての自分を探し歩く物語だ。後遺症で妻(上戸彩)や息子の顔が白い仮面に見えるという設定にインパクトがある。

このドラマでは、木村がこれまでの「かっこいいヒーロー」という固定化したイメージを脱する演技を見せている。自分は元々家庭や職場でどんな人間だったのか。なぜ結婚し、離婚し、また新たな家族を持ったのか。知りたい。でも、知るのが怖い。そんな不安定な立場と複雑な心境に陥った男を丁寧に造形している。ようやく実年齢に見合った役柄を演じられる、大人の俳優になったのだ。

次は、堺雅人が精神科医に扮した『Dr.倫太郎』(日本テレビ―STV)だ。いまだに『半沢直樹』(TBS―HBC)のイメージが鮮烈な堺だが、それを払拭する、まったく異なるタイプの主人公に挑んだ。なぜなら精神科医の仕事の中心は、患者の話をじっくりと聞くことにあるからだ。しかも、患者である売れっ子芸者(蒼井優)に魅かれたことで、自身も悩みを抱え込んでしまう。

よく見かけるスーパー外科医のドラマのような派手な見せ場がない分、堺の飄々とした押さえの演技が光っている。特に、蒼井との場面は力のある役者同士の名勝負だ。

3本目に、『天皇の料理番』(TBS―HBC)を挙げたい。物語の主人公は、大正・昭和時代に宮内省大膳頭を務めた実在の人物、秋山徳蔵(ドラマでは篤蔵)だ。

原作は36年前に出版された杉森久英の小説である。これまでに2度ドラマ化されており、1980年に篤蔵を演じたのは、後に『チューボーですよ!』(同)に出演する堺正章。93年版は高嶋政伸。そして今回が佐藤健だ。

佐藤は、いわゆる器用な役者ではないかもしれない。しかし、そのエネルギッシュな演技と独特の愛嬌は見る者を引きつける。いわば発展途上の魅力だ。またこのドラマでは、主人公の妻を演じる黒木華の存在感が際立つ。戦前がこんなに似合う若手女優も珍しい。
 
これら3本のドラマに共通するのは、主演俳優たちの果敢な挑戦である。いずれの物語も決して明るいものではない。むしろ暗かったり、重かったりする難しいドラマだった。彼らは自身の演技の幅を広げることで、見事に登場人物として生きてみせたのだ。

(北海道新聞「碓井広義の放送時評」 2015年06月08日掲載)