碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

「政府与党 報道威圧」のこと

2015年07月28日 | ビジネスジャーナル連載のメディア時評



ビジネスジャーナルでの連載、碓井広義「ひとことでは言えない」。

このブログにアップしていなかった分を、転載しておきます。


報道威圧に屈するフジとテレ東

批判的報道は規制すべきという暴論

 6月25日に行われた自民党の有志議員による勉強会で、メディアに対する威圧的な発言が続出し、現在も大きな問題になっている。問題視されるのも当然で、発言内容には耳を疑うような言葉が並んでいた。以下がそれである。

 「反・安保(安全保障関連法案)を掲げ、国益を損ねるような一方的な報道がなされている」ので、「こらしめるには、広告料収入がなくなるのが一番」であり、「悪影響を与えている番組を発表し、そのスポンサーを列挙すればいい」というのだ。

 これはつまり、政権に批判的な報道機関は広告主を通じて規制すべきだという、天下の暴論である。民放の足元を見たような“兵糧攻め”もどきの幼稚な発想にあきれてしまう。

報道威圧を、テレビはいかに伝えたか

 勉強会翌日の26日夜、テレビ各局はメインのニュース番組でこの件を報じたが、その内容や温度には明らかにばらつきがあった。

 『ニュースウオッチ9』(NHK)では、河野憲治キャスターが「報道の自由、表現の自由は、いうまでもなく民主主義の根幹。自民党の若手議員の発言や、とりわけ作家の百田尚樹氏による『沖縄の2つの新聞は潰さなければならない』という発言は、報道機関に所属する者として決して認められない」とカメラ目線で主張した。

 また、「メディアの是非は視聴者や読者が決めます。こうした発言をする政治家の是非は、選挙で有権者が決めます」と述べたのは、『NEWS ZERO』(日本テレビ系)の村尾信尚キャスターだ。

 『NEWS23』(TBS系)の膳場貴子キャスターは、「権力による報道規制にほかならないと思うのですが」と、コメンテーターに問いかけるかたちだった。

 『報道ステーション』(テレビ朝日系)の古舘伊知郎キャスターは、この問題を伝えた後で「こういう話をしているだけで、この番組もこらしめられるんですかね」と苦笑いした。さらに、「政権が気に入る意見とか、お気に召す報道をすることで、世の中が豊かになるとは思えない」と締めくくった。

各局の対応に表れた温度差

 驚いたのは、『あしたのニュース』(フジテレビ系)と『ワールドビジネスサテライト』(テレビ東京系)だ。ニュースとして取り上げてはいたが、VTRによる説明のみで、キャスターなどがスタジオでコメントすることはなかった。残念ながら、その腰の引け具合は当事者意識の欠如といわざるを得ない。

 今回、与党議員たちが行った問題発言の背景には、安倍晋三政権が強めている「メディアコントロール」がある。4月にも、自民党がNHKやテレビ朝日の経営幹部を呼びつけ、個別番組の問題について異例の事情聴取を行ったばかりだ。

 しかし、これまでも今後も、多様な情報を発信すると共に権力を監視し、問題点を指摘することはジャーナリズムの責務である。それをしないのは、メディアが自らの首を絞めるに等しい。

(ビジネスジャーナル 碓井広義「ひとことでは言えない」2015.07.14)

「バカリズム・ドラマ」のこと

2015年07月28日 | ビジネスジャーナル連載のメディア時評



ビジネスジャーナルでの連載、碓井広義「ひとことでは言えない」。

このブログにアップしていなかった分を、転載しておきます。


バカリズム脚本のドラマが超面白いワケ 
 鋭い人間観察と苦笑いが生む絶妙なエピソード

 昨年の連続ドラマ『素敵な選TAXI(センタクシー)』(フジテレビ系)の脚本で、「第3回市川森一脚本賞」の奨励賞を受賞したお笑いタレントのバカリズム。

 6月23日には、バカリズムが脚本を手がけた単発ドラマ『かもしれない女優たち』(フジテレビ系)が放送された。

 今回は、この2本を振り返ることで「バカリズム・ドラマ」の魅力を探ってみたい。

■よくできた連作短編集 『素敵な選TAXI』

 昨年秋の放送時、いい意味で予想を裏切られた。「タイムスリップするタクシー? 脚本がバカリズム? 大丈夫なのか?」と思っていたが、ふたを開けてみると、いい具合に肩の力が抜けた癒やし系のSFドラマだった。

 なにかトラブルを抱えている人物が、偶然乗ったタクシー。それは、過去に戻れるタイムマシンだった。恋人へのプロポーズに失敗した売れない役者(安田顕)、駆け落ちする勇気がなかった過去を悔いる民宿の主人(仲村トオル)、不倫相手である社長と嫌な別れ方をした秘書(木村文乃)などが乗車する。

 映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』では、タイムマシンの役割を果たすのは、ガルウイングドアの「デロリアン」だったが、同ドラマでは40年以上前のトヨタ「クラウン」のタクシーというのがうれしい。

 運転手は“お久しぶり感”のある竹野内豊だ。制服にひげといういでたちで乗客の話をじっくりと聞き、彼らを「人生の分岐点」まで戻してくれる不思議なおじさんを飄々と演じており、ちょっとした新境地だった。

 乗客は過去に戻って新たな選択をするが、必ずしも事がうまく運ぶわけではなく、もうひと波乱ある。バカリズムの脚本は、そのあたりのひねりがきいており、よくできた連作短編集のような掘り出し物の1本だった。

■後味のいいパラレルワールド 『かもしれない女優たち』

 『素敵な選TAXI』同様、この単発ドラマも「人生の岐路と選択」というテーマに挑んだ野心作だ。

 ヒロインは竹内結子、真木よう子、水川あさみの3人。女優として成功している彼女たちが、「あり得たかもしれない、もうひとつの人生」を競演で見せるところがミソである。

 例えば、現実の竹内は15歳で事務所にスカウトされたが、「もし、それを断っていたら」という設定でドラマが進む。大学を出て編集者になった竹内は、恋人との結婚を望みながら、なかなか実現できないでいる。

 また、女優志望の真木と水川は、アルバイトを続けながらオーディションを受けては落ちまくる日々だ。もうあきらめようかと思っていた頃、2人に思いがけない出来事が起きる。

 エキストラ扱いで、顔も映らない端役を務める現場。邦画を見るとみじめな気分になるからと、レンタルビデオ店で洋画ばかりを借りる日常。いきなり売れっ子になった新人女優への複雑な思い……。

 バカリズムの脚本は、下積み女優にとっての“芸能界のリアル”を、苦笑い満載のエピソードで丁寧に描いていく。

 3人の女優がそれぞれの軌跡と個性を生かした物語だからこそ、本人たちが演じる「あり得た自分」が絶妙にからみ合う。その結果、実に後味のいいパラレルワールドが成立していた。

 「バカリズム・ドラマ」の魅力は、ユーモアの中にある鋭い人間観察と、人に対する温かい眼差しだ。こうした単発ドラマもいいが、今後、バカリズムにはぜひ連続ドラマの新作を書いてほしい。

 なんといっても、脚本こそがドラマの核であり、設計図であり、その成否を決めるものだ。バカリズムという個性あふれる新たな書き手の登場を歓迎し、大いに期待したい。

(ビジネスジャーナル 碓井広義「ひとことでは言えない」2015.07.03)