毎日新聞に、NHK「のど自慢」に関する記事が掲載されました。
この中で、解説しています。
変わらぬ「地域の人間ドキュメント」
のど自慢 70年目の快走
のど自慢 70年目の快走
NHK総合の番組「のど自慢」が、戦後の歩みと共に放送70年目を迎えた。出演者がバンドの生演奏で歌声を披露するスタイルは変わらないが、今もなお音楽番組の週間視聴率でトップを争う人気ぶりだ。
「のど自慢」は全国を巡回し、毎週日曜午後0時15分から45分間、生放送される。
7月26日の会場は埼玉県春日部市の市民文化会館。中高生ら20組がマイクを握り、合否を伝える鐘を聞いた時の出場者の表情や、司会の小田切千アナウンサー(45)との会話が客席を沸かせる。
石原つるさん(77)は、小田切アナから「今日は7年前に亡くなった夫の誕生日」と紹介され、都はるみさんの「好きになった人」を熱唱。「鐘二つ」で不合格だったが、元気な歌声と笑顔が会場を魅了したとして、ゲスト歌手が選ぶ特別賞に輝いた。本番後、「帰ったら仏壇のお父さん(夫)に報告したい」と興奮気味に話した。
出場枠20組に対し、多い時には2000組以上の応募がある。ディレクターは選曲理由が書かれた応募はがき1枚ずつに目を通し、放送前日の予選会に出場する250組に絞り込む。予選会では小田切アナが出場者を取材。出場者との距離を縮めるためだ。
「その人の人生を垣間見て、ステージに上がる以上、気持ちよく歌ってもらえるように紹介したい」と小田切アナ。
◇音楽番組首位争う
民放地上波のプロ歌手による音楽番組人気に陰りが見える中、「のど自慢」は今年も、同ジャンルの視聴率週間順位で5位以上をキープ。8月23日も8.7%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)で首位だった。上智大の碓井広義教授(メディア論)は「出場者に寄り添って番組は作られている。地域の人間ドキュメントになっているところが面白い」と分析する。
スタートは1946年1月19日。当初はラジオ番組で、作曲家の三枝成彰さん(73)の父で初代ディレクターの故・三枝健剛さんが企画。碓井教授は「終戦までメディアに登場することのなかった素人がスポットライトを浴びる番組が始まったのは、民主化の象徴とも言える」と話す。
48年にはシベリア抑留からの帰還兵が、現地で望郷の思いを込めて歌われていた「異国の丘」で出場し、この歌が大流行するきっかけになった。故・美空ひばりさんや北島三郎さん、ジェロさんらも出場経験がある。
今年から中学生に門戸を開き、若い視聴者の取り込みにも挑む。矢島良チーフプロデューサー(43)は「出場者の思いを伝える番組であり続けたい」と語る。【須藤唯哉】
(毎日新聞 2015年08月31日)