北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。
今回は、8月の終戦特番について書きました。
終戦特番
美化せず再現 戦争のリアル
敗戦から70年の今年8月。様々な終戦特番が放送された。今後も新たな戦争が起きないようにするために、過去の戦争の記憶を引き継ぐことが重要だ。
まずドラマだが、最も見応えがあったのは、堀北真希と成宮寛貴の「妻と飛んだ特攻兵」(テレビ朝日)である。舞台は満州。特攻兵を訓練していた少尉(成宮)が、終戦後の8月19日、ソ連軍に対する特攻作戦を敢行した。しかも彼が操縦する戦闘機の後部座席には、結婚から間もない妻(堀北)が乗っていたのだ。一瞬耳を疑うが、実話である。
当時、満州には多くの民間人が開拓団として入植していたが、日本軍は彼らを見捨てるような形で撤退していった。このドラマでは、開拓団の人たちがどれほどの辛酸をなめたかも丁寧に描いていた。そして、彼らが避難する時間を稼ぐことを目的に、少尉たちはソ連軍の戦車に体当たりするのだ。
物語全体は、いわゆるメロドラマではない。また戦争を美化する傾向もない。戦争が人々の大切なものを奪う理不尽さを、若い夫婦の短い生涯を通じて伝えていた。出撃前、成宮演じる少尉が基地に残る上官に言う。「これからの日本は、国が国民を苦しめるような、そんな国にならないことを願います」。
一方、ドキュメンタリーで最も衝撃的だったのが、NHKスペシャル「カラーでみる太平洋戦争~3年8か月・日本人の記録~」である。見せてくれたのは、NHKが国内外で独自に収集した戦時中の映像だ。当時はモノクロ(白黒)フィルムによる撮影がほとんどだが、番組では最新のデジタル技術を駆使して、映像をカラー化していた。
モノクロに色がついただけかと思っていたが、見事に裏切られる。南の島での壮絶な戦いや、戦時下の庶民の日常が、予想を超える生々しさで再現されていたのだ。戦争が、よりリアルなものとして伝わってきた。
特に驚いたのは、戦場はもちろん、戦禍の街に横たわる死体の映像だ。これまでテレビで放送されたどんなテレビ番組と比べても、これほど多くの死体が画面に映し出された例はないだろう。制作側の勇気ある決断であり、そのおかげで、「良い戦争」も「正しい戦争」もあり得ないことを、あらためて認識することができた。
「国が国民を苦しめるような国」への傾斜が強まっている、戦後70年の今。テレビというメディアに何ができるか、何をすべきかもまた問われている。
(北海道新聞 2015年9月7日)