碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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【気まぐれ写真館】 猛暑日の夕景

2022年08月02日 | 気まぐれ写真館

2022.08.02


「GOETHE(ゲーテ)」倉本聰さんへのインタビュー(1)

2022年08月02日 | 本・新聞・雑誌・活字

photo by H.Usui

 

 

【独占インタビュー】

87歳・倉本 聰は、

なぜ60年以上も書き続けられるのか?

(1)

 

『前略おふくろ様』や『北の国から』など、人々の心に残る名作を生みだしてきた脚本家、倉本聰。80歳を過ぎて『やすらぎの郷』や『やすらぎの刻~道』を手がけただけでなく、87歳の現在も”新作”に挑んでいる。北海道・富良野に倉本を訪ねた目的は、たったひとつだ。なぜ60年以上も書き続けられるのか。それが知りたかった。

文明社会では時間が金銭として換算される

富良野市街から少し離れた森の中に、倉本聰の仕事場がある。天井が高い丸太造り。目の前に木々の緑が広がる大きな窓。富良野塾を開いていた頃からのアトリエである。執筆や点描画の制作、そして客人と向き合うのもこの場所だ。

「富良野に移住したのは42歳の頃なんです。そこからもう一度人生が始まっちゃった。自分の身体の中のエネルギーを使う生活がね。それまでは頭で生きてたというか、都会人の感覚でしたから。 ところが、こっちに来たら全然違うことがわかった。都会の生活って全部、何かの代替エネルギーで暮らしてるよね。でも、ここでは自分のエネルギーで暮らすしかない。しかも、知識なんて全然役に立たないことを思い知った。知恵で生きないとダメだって」

1981年から20年以上も続いた、代表作『北の国から』。主人公の黒板五郎(田中邦衛)一家が、廃屋で暮らし始めた第1話を思いだす。確か、五郎のモチーフはロビンソン・クルーソーだったはずだ。

「このアトリエに入ってくる時、通った林道があるでしょ? 移住当時はまったく整備されてなくて、でっかい岩が路面にはみだしてたんです。いつもクルマの片輪が乗り上がるんで、移動したい。でも、自分の力じゃどうにもならない。その時、近所の農家の青年に『あの岩を動かしたいんだけど、あなただったらどうする?』って聞いてみた。 そしたらね、『やらねばならんなら、やるよ』って言うんだ。 『どうやって? 道具も重機も何もないんだけど』って心配したら、『剣先のスコップを持ってきて、岩の回りを掘る』と。ぐるっと掘って、岩をむきだしにする。次に丸太をテコにして、じわじわと四方から浮かしていく。『丹念にそれをやったら、1日に3㎝ぐらい動くんでないかい? 30日(1ヵ月)もやったら1mは動く』って当たり前のように言われた。 これにはひれ伏しちゃったね。つまり、僕らの感覚では1日に3㎝ってのは動かないって範疇(はんちゅう)ですよ。でも、1日3㎝とはいえ、確かに動くんだ。文明社会のなかでは、時間が金銭として換算されちゃってるよね。そういう考え方はもうやめようと思った」

<「GOETHE(ゲーテ)」2022年8月号より>